融資の申込み金額はいくらにすればいいのでしょうか。
なるべく多く借りた方がよいのか。それとも少なめに借りた方が良いのか。
今回は現場での経験をもとに、借り入れ金額に対するひとつの考え方を書いていきたいと思います。
借入額を考える際の材料のひとつにでもなれば幸いです。
借入額については全体として「多い」「少ない」ではなく、お金の「使い道ごと」に検討するとよいと思います。
私が創業融資のお手伝いをさせていただく中で、お客様と融資額についても相談をします。
その際にお伝えしているのが、運転資金を多くして設備資金をできる限り抑えることです。
運転資金はできるだけ多く借りる
まずは、運転資金を多くする理由について書いていきたいと思います。
現金がある限り倒産しない
銀行口座に現金があり、取引先に支払いができる限り倒産はしません。
どんなに赤字であっても現金がある限り事業は続けていくことができます。
逆に損益上は黒字でも、手元の現金がなくなってしまえば倒産してしまいます。
いわゆる「黒字倒産」です。
なので、特に赤字になりやすい創業期は手元資金を厚くすることが大事です。
想定外の出費は必ずある
いざ開業すると思いもしなかった出費があります。
たとえば、「内装工事費が見積もりよりも高くなってしまった」「広告費が予想以上にかかる」「予定していなかった機材や備品を購入しないといけなくなった」などです。
このように予定していなかった支払いにも対応できるように、余裕資金をもっておきたいところです。
少し失敗しても改善できる
開業したものの当初の予定通りにいかないことは多いです。
たとえば、考えていた集客方法を実行したが、想定した結果がでないということはよくあります。
そのような時でも、運転資金に余裕があれば他の策を講じることができます。
逆に現金が少なければ手持ち資金の範囲内の改善しかできなくなり、選択肢が少なくなってしまいます。
改善する選択肢を増やすためにも手持ちの現金は多くしておきたいです。
最低でも経費の3ヶ月分借りる
以上のように運転資金をもっておくことはとても大切です。
その運転資金を借りる際は経費の1ヶ月分などではなく3ヶ月分は欲しいところです。
日本政策金融公庫や信用保証協会は3ヶ月分であれば普通に認めてくれます。
それにプラスして「不意の出費に備えた余裕資金」として100万円位を上乗せするのもよいと思います。
手元資金を厚くして創業期を乗り切る
創業期は新規のお客様を集客しなければなりません。
固定客がある程度増えるまではどうしても時間がかかってしまいます。
そのため、開業から数ヶ月は赤字が続くこともめずらしくありません。
赤字の期間を借り入れで補てんして、早く黒字転換させる。
資金的余裕が多いほど、黒字化までの期間に猶予ができます。
売上げが不安定な創業期を乗り切るためにも運転資金を多く借りておくとよいと思います。
仮に早く黒字化を達成できれば、借りたお金は淡々と返済していけばよいですし、余裕があれば一括の返済も可能になっています。
設備資金を抑える
運転資金はできるだけ多く、反対に設備資金はできるだけ低くしたいところです。
返済負担を減らす
前掲のように運転資金を多くすることが重要だと書きました。
それに加えて設備資金も増やしてしまうと今度は返済負担が大きくなってしまいます。
返済負担が大きくなると黒字になったとしても、返済の重さが事業に悪影響を及ぼすようになります。
とくに設備投資をする場合は金額が大きく、一気に支払うので資金が手元に残りません。
そして、設備資金の返済は続くのでできるだけ抑えていきたいところになります。
中古品の購入などを検討する
設備資金を抑える方法としてよくあるのが中古品を購入することです。
とくに「これではないとだめ」というものでなければ、中古などで節約をしたいです。
ただ、すぐに壊れそうなものではいけないので、最低限の機能を果たすものは必要です。
新品でも同じ目的なら安いものにすることもあります。
たとえば事業で使う車両などです。
車での移動が多いので新車が必要というのであれば、普通車ではなく軽自動車にすることもあります。
店舗の内装費にも設備投資を抑えるということは言えます。
これは立地条件との兼ね合いもあるので難しいかもしれませんが、「スケルトン」の物件ではなく「居抜き」物件を探してみるのも一考です。
スケルトン物件は中に何もない状態なので、自分の思い通りの配置にできますが、その代わり工事費が高額になります。なので、妥協は必要かもしれませんが、工事費を抑えた居抜き物件を選ぶことも考えていきたいところです。
1年程度での追加融資は難しい
上記で運転資金はできるだけ多く借りると書きました。
それには他の理由もあります。
初回の借入れから1年程度で追加融資を受けるのは難しいというのが理由です。
追加融資は難しい
たとえば、開業時に日本政策金融公庫で創業融資を受けていて、それから1年もしないうちに公庫で追加融資を受ける。
このような場合、融資の可能性はかなり低くなります。
なぜなのか追加融資が必要になる場合の例をいくつか挙げてみましょう。
残債に対して年商が足りない
たとえば、300万の融資を受けて開業したものの集客に苦戦し、1年目の年商が500万円だったというケース。
この場合年商500万円に対し、返済がほとんど進んでおらず、二百数十万円ほど残債があると推測されます。
そうすると、返済も少なく年商の約半分近くの残債があるので、これ以上融資はできないと判断される可能性があります。
なぜ年商の半分の残債があると厳しくなるかというと、次のような理由があります。
金融機関の判断として以下のような判断基準があるのです。
運転資金のみの目安となりますが、
・残債が月商の3ヶ月以内…青信号
・残債が月商の6ヶ月以内…黄色信号
・残債が月商の6ヶ月以上…赤信号
というような目安があるのです。
つまり、上記の例で言うと年商500万円で二百数十万円の残債があると、月商の6ヶ月分以上となり、黄色信号になります。したがって、融資するのは難しいと判断されるわけです。
ただし、業種によって入金サイクルなどに違いがあるので変わってくることもありますが、一般的にはこのように評価しています。
赤字が続き、黒字化が見込めない
融資をうけて開業したものの赤字が続いて資金が底をつきそうになってしまっている場合です。
この場合は2つの可能性があります。
まず、赤字が続いていて毎月の収支が改善傾向になく、黒字化が見込めない。このようなケースは追加融資がかなり厳しくなります。
逆に、赤字が続いていても毎月の収支は少しづつ良くなっていて、もう少しで黒字化する。というようであれば可能性はあるかもしれません。
ただし、審査が慎重にされるのはいうまでもありません。
この赤字続きで審査厳しくなるのは融資を受けずに自己資金のみで開業した人でも同じです。
「もう少し様子をみさせてほしい」と言われる
業績が良い場合でも、1年以内に融資を申し込んでも返済実績が足りません。
なので、1年以内に申し込むと「1年返済してから」とか「もう少し様子をみさせてほしい」というような回答をされることがあります。
業歴が浅いと、営業実績が良くても与信が追いつかないということが起こるのです。
また、公庫の面談に同席していると「1年返済すればまた借入れは可能です」と担当者に言われることがあります。
これは裏を返せば「1年返済が終わるまで融資できません」ということになります。
なので、最低でも1年は返済してからでなくてはいけません。
別の金融機関にいっても厳しい
たとえば、日本政策金融公庫で創業融資を受けて、上記のようなことで追加融資を受けるために保証協会を使って融資を受けることも考えられます。
それでもやはり厳しいことには変わりありません。
その理由は基本的に同じです。
追加融資の理由によっては借りられるかもしれませんが、金額が低くなる可能性は高いです。
金額を抑えて借りても追加融資は難しい
前掲したように1年以内に追加で融資を受けることは難しくなります。
当初少ない金額で運転資金を借りて、追加融資を断られたら身動きが取れなくなってしまいます。
であれば、そうなる前に最初の借入れで運転資金を借りられるだけ借りておく方がよいといえます。
借入額の例
上記のように運転資金を多く設備資金を少なくする例を挙げてみたいと思います。
たとえば、軽貨物運送業の場合を挙げてみます。
総必要額
【設備資金】
中古の軽車両2台 100万円
設備資金合計 100万円
【運転資金】
外注人件費(約3ヶ月分) 340万円
給与(約3ヶ月分)148万円
その他諸経費(約3ヶ月分)262万円
運転資金合計 750万円
設備資金と運転資金の合計 850万円
調達金額
自己資金 200万円
融資額 650万円
自己資金+融資 850万円
というように業種特性はありますが、設備資金を最低限にして運転資金に多く回すことができました。
車両購入後、運転資金の750万円が通帳にあるので余裕をもって営業を開始できます。
まとめ
ここまで創業融資の申込み金額について解説してきました。
まとめると
・運転資金はできるだけ多く借りる。
・設備資金は可能な限り抑える。
・少なめに借りて、万が一すぐに追加融資が必要になっても審査は厳しい。
最後までお読みいただきありがとうございました。
運転資金を借りるといっても、人によって資産状況やビジネスプランが違いうため、当然融資金額も変わってきます。弊所では金額を含めたご相談も受け付けております。