創業融資の審査で、「自己資金はいくらありますか」「その自己資金を証明してください」と言われて戸惑う方は少なくありません。
事業計画や売上見込みばかりに意識が向き、自己資金の証明の重要性を十分に理解しないまま申請してしまうケースが見られます。
しかし、創業融資の審査において自己資金の証明は、事業の実現性や申込者の信用力を判断するための重要な要素の一つです。
では、なぜ金融機関はここまで自己資金を重視するのでしょうか。
自己資金は単に「手元にあるお金の額」を見るためのものではありません。これまでどのように資金を準備してきたのか、計画的にお金を管理できる人物なのか、そして本気で事業に取り組む覚悟があるのかといった点まで見られています。
特に創業時は実績がないため、自己資金の積み上げ方が信用判断の大きな材料となるのです。
一方で、自己資金の証明でつまずいてしまう人が多いのも事実です。
通帳がないと証明できないと思い込んでいたり、どこまでが自己資金として認められるのかを誤解していたりするケースは非常に多くあります。
また、直前に資金を集めれば問題ないと考え、結果的に審査で不利になる例も少なくありません。
自己資金証明は「あるか・ないか」だけでなく、「どのように用意したか」も問われる点に注意が必要です。
この記事では、行政書士の視点から、創業融資における自己資金の証明の正しい考え方と具体的な証明方法について、順を追って解説していきます。
自己資金で不安を感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。
創業融資における自己資金証明の基本
創業融資における自己資金証明を正しく理解するためには、まず「自己資金とは何か」という基本的な考え方を押さえておく必要があります。
自己資金とは、単に手元にあるお金の総額を指すものではありません。
創業融資の審査においては、「申込者自身が用意した、返済義務のない資金」であるかどうかが重要な判断基準になります。
自己資金とは何を指すのか
多くの方が誤解しがちなのが、「自分の口座に入っていれば自己資金になる」という考え方です。
しかし、金融機関は資金の名義だけでなく、その成り立ちまで確認します。
たとえば、直前に誰かから借りたお金や、一時的に預けられただけの資金は、口座残高としては存在していても、自己資金としては評価されません。
自己資金として認められやすいのは、長期間にわたってコツコツと貯めてきた預金です。
毎月一定額が積み立てられている履歴は、計画性や開業準備の裏付けになります。
また、親族や配偶者からの支援についても自己資金として評価されるケースが一般的です。この場合も、資金の流れが通帳履歴で説明できることが重要になります。
さらに、株式や投資信託、生命保険の解約返戻金など、自分が保有している資産を現金化した資金も、自己資金として認められます。これらは申込者自身の資産であり、借入ではないためです。ただし、いつ・どのように現金化したのかが分かる資料を用意し、通帳の入金履歴と整合性を取る必要があります。
「自己資金としてカウントされるか」の視点が重要
ここで特に意識しておきたいのが、「そのお金は本当に自己資金としてカウントされるのか」という視点です。創業融資の審査では、金額の大小と同時に資金の性質が重視されます。たとえ金額が大きくても、出どころを説明できない資金や、借入と疑われる資金はマイナス評価につながる可能性があります。
逆に言えば、金額がそれほど多くなくても、自己資金としての正当性が明確であれば、評価は大きく下がりません。自己資金の証明では、「いくらあるか」だけでなく、「なぜそのお金が自己資金と言えるのか」を説明できることが重要です。
この基本を理解しておくことが、創業融資をスムーズに進めるための第一歩となります。
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自己資金証明の原則的な方法|預金通帳の提出
創業融資における自己資金証明の原則的な方法は、預金通帳の提出です。
金融機関は、申込者がどのように自己資金を形成してきたのかを客観的に確認するため、通帳の入出金履歴を重視します。単に現在の残高が分かる書類だけでは不十分で、過去の資金の流れを確認できる点が重要です。
紙の通帳がある場合の証明方法
まず、紙の通帳がある場合の証明方法についてです。
この場合は、通帳を面談日などに持参することで、審査担当者が必要分をコピーします。
提出する履歴の期間は、直近6か月程度が目安とされています。毎月の給与入金や貯蓄の積み重ねが分かる履歴があると、計画的に自己資金を準備してきたことを説明しやすくなります。途中で大きな入金がある場合は、その理由を説明できるようにしておくことも大切です。
ネット銀行・通帳がない場合の対応方法
次に、ネット銀行や通帳が発行されない口座を利用している場合の対応方法です。
紙の通帳がないからといって、自己資金証明ができないわけではありません。この場合、インターネットバンキング上の取引履歴を印刷したもので問題ありません。入出金履歴が確認できる画面を用意する必要があります。期間については紙の通帳と同様、直近6か月程度を目安に準備しましょう。
印刷する際の注意点
印刷する際にはいくつか注意点があります。
まず、口座名義、金融機関名、口座番号の一部、そして取引日・金額・残高が確認できる状態であることが重要です。画面を途中で切ってしまい、情報が欠けていると、資料としての信用性が下がってしまいます。また、ページ番号や印刷日時が表示される設定にしておくと、改ざんの疑いを持たれにくくなります。
さらに、複数の口座に自己資金が分散している場合は、それぞれの通帳や履歴をすべて提出し、合計額が分かるように整理しておくと親切です。
通帳や履歴の提出は、単なる形式的な手続きではなく、自己資金の信頼性を示す重要な資料です。見やすく、分かりやすく整えることが、創業融資を有利に進めるポイントになります。
必要な預金履歴はどれくらい?
原則は半年分が目安
創業融資の自己資金証明において、「どれくらいの期間の預金履歴を提出すればよいのか」という点は、多くの方が疑問に感じるポイントです。
結論から言うと、必要とされる預金履歴は直近6か月分が目安になります。実務的には担当者ごとに期間が異なりますが、半年程度の履歴を確認されるケースが一般的です。
なぜ半年分の履歴が求められるのか
では、なぜ半年分の履歴が求められるのでしょうか。
その理由は、自己資金の「金額」と共に「形成過程」を確認するためです。
半年間の入出金履歴があれば、毎月の収入状況や貯蓄のペース、資金管理の姿勢をある程度把握することができます。特に、毎月一定額を積み立てている履歴があれば、計画性を持って創業準備を進めてきたことの裏付けとなり、評価につながりやすくなります。
短期間で増えた残高はどう見られるか
一方で、提出する履歴の中で注意が必要なのが、短期間で残高が大きく増えているケースです。
たとえば、申請直前の1~2か月でまとまった金額が入金されていると、「このお金はどこから来たのか」という点を必ず確認されます。親族からの支援や、自身の資産を現金化したものであれば問題ありませんが、その場合でも、説明できる資料や証拠が必要になります。
説明ができない入金があると、金融機関は借入金や一時的な資金の可能性を疑います。
事実として借りていないお金であっても、通帳履歴で判断できなければ、自己資金として評価されないことがあります。これが、自己資金は「あるのに評価ゼロ」と判断されてしまう典型的なパターンです。
なお、半年より前の履歴がまったく見られないというわけではありません。
場合によっては、さらに以前の履歴を求められることもありますし、逆に担当者によっては、2,3ヵ月分で足りることもあります。
重要なのは、短期間で用意した資金ではなく、継続的に準備してきた自己資金であることを示すことです。預金履歴は、その姿勢を伝えるための重要な資料だと言えるでしょう。
自己資金として評価される資金・されない資金
創業融資の自己資金の証明では、「いくら用意できたか」と同時に、「その資金がどのような性質のものか」が重視されます。
同じ金額であっても、自己資金として評価される資金と、評価されない資金が明確に分かれるため、この違いを正しく理解しておくことが重要です。
自己資金として評価されるケース
まず、自己資金として評価されるケースについて見ていきましょう。
代表的なのが、長期間にわたってコツコツと貯めてきた預金です。
毎月の給与や事業準備の中で積み立ててきた履歴が通帳で確認できれば、計画性や資金管理能力の裏付けとなり、高く評価されやすくなります。
創業融資では、このような「積み上げ型」の自己資金が最も基本的かつ信頼性の高いものとされています。
親族・配偶者からの支援
次に、親族や配偶者からの支援です。
親や配偶者からの資金提供は、自己資金として認められるケースが一般的です。
この場合、「返済義務がない」又は「利益が出たら少しずつ返す」など親族特有の支援がポイントになります。通帳上で資金の流れが確認でき、必要に応じて資金支援の趣旨を説明できれば、審査上問題になることはほとんどありません。
株や保険など資産の現金化
また、株式、投資信託、生命保険の解約返戻金など、自分自身が保有している資産を現金化した資金も、自己資金として評価されます。
これらは申込者自身の財産であるためです。ただし、いつ・どの資産を・どのように現金化したのかが分かる資料を用意し、通帳の入金履歴と矛盾がないようにする必要があります。
自己資金として評価されないNGケース
一方で、自己資金として評価されないNGケースもあります。
代表的なのが、友人や知人からの資金提供です。たとえ「借りていない」「返さなくていい」と本人が考えていても、金融機関から見ると、返済義務の有無が不明確でトラブルになりやすい資金と判断されます。
そのため、原則として自己資金としては認められません。
借入金や立替金
借入金や立替金も同様です。
カードローンや消費者金融、第三者からの借入で用意したお金は、明確に自己資金ではありません。これらは返済義務があるため、創業後の資金繰りを圧迫すると判断され、マイナス評価につながります。
タンス預金が認められない理由
また、タンス預金が認められない理由も重要です。
現金を自宅で保管していたとしても、その形成過程を証明する手段がなく、出どころが不明確なためです。通帳履歴で説明できない資金は、自己資金として評価されにくい点に注意が必要です。
行政書士が解説|自己資金証明でよくある失敗例
自己資金の証明は、創業融資の審査において重要なポイントであるにもかかわらず、些細なミスや認識の違いによって評価を下げてしまうケースが少なくありません。
行政書士として多くの相談を受ける中でも、「自己資金は十分に用意しているのに、なぜか評価されなかった」という声は多く聞かれます。ここでは、自己資金の証明でよくある失敗例について解説します。
入金の説明ができないケース
まず多いのが、入金の説明ができないケースです。
通帳を見ると、ある時期にまとまった金額が突然入金されているにもかかわらず、その理由を明確に説明できないと、金融機関は資金の出どころに強い疑問を持ちます。
本人としては「貯めていたお金をまとめて入れただけ」「一時的に別口座に置いていた」と思っていても、証明できなければ評価できません。証拠がない場合、借入金や一時的な資金と疑われ、自己資金として評価されないことがあります。
見せ方を間違えて不利になる例
次に、見せ方を間違えて不利になる例です。
たとえば、複数の口座に自己資金が分散しているにもかかわらず、一部の通帳しか提出していないケースがあります。
この場合、提出していない分は自己資金として評価されないため、融資額が減ってしまうなどの影響が出てしまいます。
また、必要以上に古い履歴を省略したり、画面を切り取って情報が欠けた状態で提出したりすると、資料の信頼性が下がる原因になります。自己資金証明は、正確さと分かりやすさが何より重要です。
「自己資金はあるのに評価されない」理由
さらに、「自己資金はあるのに評価されない」理由として多いのが、資金の性質を誤解しているケースです。たとえば、友人や知人から一時的に預かったお金や、借入で用意した資金を自己資金だと思い込んでいる場合があります。本人にとっては使えるお金であっても、返済義務がある、または不明確な資金は、審査上は自己資金とは見なされません。
また、タンス預金も証拠がないという理由で評価がされない典型パターンです。
このような失敗の多くは、「自己資金=口座残高」という認識に原因があります。
実際には、自己資金の証明では金額そのものと、その背景や形成過程が重視されます。自己資金があるにもかかわらず評価されないのは、その証拠が不足しているか、見せ方を誤っているケースがほとんどです。事前にポイントを押さえて準備することが、創業融資を成功させる鍵となります。
自己資金証明で融資審査を有利に進めるポイント
自己資金の証明は、単に通帳を提出すれば終わりというものではありません。
履歴の整え方や証拠の残し方次第で、融資審査に与える印象は大きく変わります。
ここでは、自己資金を通じて創業融資の審査を有利に進めるためのポイントを、行政書士の視点から解説します。
履歴の整え方
まず重要なのが、預金履歴の整え方です。
自己資金は「急いで集めたお金」ではなく、「継続的に準備してきたお金」であることが伝わる状態にする必要があります。理想的なのは、毎月一定額が積み立てられている履歴が確認できることです。
申請直前に大きな入金が集中していると、その理由を厳しく確認されるため、できる限り早い段階から口座を一本化し、資金の動きをシンプルにしておくことが望ましいでしょう。
説明資料を用意する重要性
次に、説明資料を用意する重要性です。
通帳の履歴だけでは伝わらない事情がある場合、そのまま提出してしまうと誤解を招くことがあります。たとえば、資産の現金化による入金がある場合は、その証拠書類を添えることで、審査担当者の理解を得やすくなります。
事前準備の考え方
また、事前準備の考え方も非常に重要です。
自己資金の証明は、融資申請の直前に慌てて対応するものではありません。創業を考え始めた段階から、
現金で保管するのではなく、必ず口座に入れて履歴を残す、資金移動の理由を自分で説明できるようにしておく、といった基本的な姿勢が後々大きな差になります。
このように、自己資金は準備の質がそのまま評価に直結します。
履歴を整え、説明資料を用意し、早めに準備を始めること。この3点を意識することで、自己資金は融資審査を有利に進める強力な材料になります。
まとめ|創業融資の自己資金は「中身」と「説明」が重要
創業融資における自己資金は、単に「いくらお金を持っているか」を示すためのものではありません。
これまで見てきたとおり、金融機関が重視しているのは、自己資金の金額とともに、その中身と証拠がしっかりしているかどうかです。
自己資金の本質を理解せずに準備を進めてしまうと、思わぬところで評価を下げてしまう可能性があります。
まず重要なのは、自己資金の「中身」です。
コツコツと貯めてきた預金、親族や配偶者からの支援、自分の資産を現金化したものなど、返済義務がほとんどなく、出どころが明確な資金であることが求められます。
逆に、友人・知人からの資金提供や借入金、出どころを説明できない現金などは、たとえ口座残高として存在していても、自己資金としては評価されません。自己資金としてカウントされるかどうかを常に意識することが大切です。
次に欠かせないのが、「説明」の視点です。
預金通帳や取引履歴はあくまで事実を示す資料にすぎず、その背景まで自動的に伝えてくれるわけではありません。
途中で大きな入金がある場合や、通常とは異なる資金の動きがある場合には、その理由を自分の言葉で説明できるようにしておく必要があります。説明が不足すると、問題のない資金であっても、不利に解釈されてしまうことがあります。
また、自己資金は、事業への姿勢を示す材料でもあります。
計画的に資金を準備してきた履歴は、事業に対する準備度や、創業後の資金管理能力を示す重要な要素です。金融機関は、数字だけでなく、その人がどのように事業と向き合ってきたかを見ています。
創業融資を成功させるためには、自己資金を「用意する」だけでなく、「どう見せ、どう説明するか」まで含めて準備することが不可欠です。
中身のある自己資金と、納得感のある説明。この二つが揃って初めて、自己資金証明は強い評価材料になります。
行政書士に相談するメリットとサポート内容
創業融資の自己資金の証明は、ルールや基準が明確に文章化されているわけではなく、実務上の判断が大きく影響します。
そのため、「自分では問題ないと思っていたのに、評価されなかった」というケースが少なくありません。こうしたリスクを避けるために、行政書士などの専門家に相談することには大きなメリットがあります。
専門家に相談すべき理由の一つは、自己資金が「審査目線でどう見られるか」を客観的に判断できる点です。申込者本人は、そのお金をどのように用意したかを理解していますが、審査担当者は通帳や資料だけで判断します。
行政書士は、これまでの実務経験をもとに、どの入金が説明を要するのか、どの点が誤解されやすいのかを事前に整理し、評価されやすい形に整えることができます。
また、説明資料の作成をサポートできる点も大きな強みです。自己資金の形成過程や、親族からの支援、資産の現金化などについて、どのように書けば分かりやすいのか、どこまで説明すべきなのかは、初めて創業融資に挑戦する方には判断が難しい部分です。
専門家が関与することで、過不足のない説明資料を準備することができ、審査担当者に無用な疑念を持たせずに済みます。
創業融資のサポートでは、自己資金の証明だけでなく、事業計画書の作成支援や、融資全体の流れの整理も行います。自己資金と事業計画の内容に整合性が取れているか、無理のない資金計画になっているかといった点も含めて確認することで、融資全体の完成度を高めることが可能です。
創業融資は、一度不利な評価が付くと、その後の進行が難しくなることもあります。
だからこそ、最初の準備段階で専門家の視点を取り入れることが重要です。
さらに、融資に強い行政書士であれば、これまでの融資事例や、金融機関の審査傾向も熟知しているため、より的確なサポートが可能です。
当事務所では、創業を目指す方に創業融資支援を行っており、これまでにも軽貨物、美容サロン、ITサービス業など、さまざまな業種の創業融資をサポートしてきました。
書類の完成度を高めることはもちろん、「どう見せれば審査官に伝わるか」という部分まで一緒に考え、結果につながる支援を徹底しています。
「自分の準備がこれで合っているのか不安」「一発で通過したいけど、書類作成に自信がない」という方は、ぜひ一度ご相談ください。初回の相談は無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせいただければと思います。
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