創業融資といえば日本政策金融公庫です。
融資なので当然審査があります。
そこで、今回は日本政策金融公庫の創業融資に通るための「基本」について書きました。
少しでもご参考になれば幸いです。
なお、この記事は以下の4点について書いています。
[su_list icon=”icon: check”]
- 自己資金で審査を有利に
- 開業業種の経験
- 事業計画書をしっかり書く
- 個人的借入れに注意
[/su_list]
自己資金で審査を有利に
まず、創業融資の審査において重要ポイントとなるのが「自己資金」です。
自己資金とは、事業に使用する自分の手持ち資金のことです。
この自己資金が審査を左右することがよくあります。
自己資金で有利になる方法を解説していきます。
自己資金はできるだけ多くためる
理想は総事業資金の3分の1
自己資金は多ければ多いほど良いというのが結論です。
総事業資金の3分の1の金額が預金口座にあると理想的です。
総事業資金の3分の1はどういうことかというと、以下のような例です。
事業に必要な設備の購入資金 400万円
開業から3か月分の運転資金(仕入れ代や家賃など)200万円
総事業資金 合計600万円
設備の購入資金と運転資金を合わせた、合計600万円が総事業資金となります。
この600万円の3分の1である200万円を自己資金で持っていると理想的です。
総事業資金の600万円から自己資金の200万円を差し引いた400万円を借りる。
という考え方です。
数年前に日本政策金融公庫の「新創業融資制度」の自己資金要件が1/3から1/10に緩和されました。
しかし、公庫の職員さんの話では現在でも1/3は欲しいと言っています。
ただ、1/3自己資金を持っているようにと言われてもなかなか難しい場合もあります。
実際には1/3に満たないケースの方が多いというのが現場での感想です。
自己資金が1/3ないと融資しないわけではありません。
1/4や1/5でも融資はします。
ですが、自己資金が多い方が融資しやすいことに変わりはありません。
1/3にとどかなくてもいいので、自己資金をできるだけ多く貯めておくと良いでしょう。
自己資金の蓄積過程に注意
給料を少しずつ貯めているとプラス
自己資金は金額だけでなく「蓄積過程」もポイントです。
一番良い自己資金の貯め方としては、毎月給料から少しずつでも貯めていくことです。
なぜかというと、給料を貯めてきたということは「開業に向けて準備をしてきた」、と日本政策金融公庫は評価するからです。
この準備具合を日本政策金融公庫は重視しています。
また、審査の際に個人の通帳を見せるので、これまでの蓄積過程がわかります。
見せ金はNG
自己資金を多くしようとして、一時的にどこかから借りてくるといった「見せ金」はNGです。
自己資金の蓄積過程とも関連しますが、預金通帳を確認されるので、多くの場合バレてしまいます。
ひとつウソが明らかになれば、他の部分も怪しまれてしまいます。
審査にプラスになることはありませんので、くれぐれも注意しましょう。
自己資金の管理は必ず通帳で
自己資金の管理は通帳で行いましょう。
なぜなら、自己資金は通帳で証明するからです。
証明できないお金は自己資金として評価してくれません。
例えば、現金を裸でもっているような、いわゆる「タンス預金」は自己資金としてカウントされません。
現金を裸で持っていると、そのお金がどこから来たものかわからないからです。
もしかしたら、一時的に借りて来たお金かもしれません。
本当に給料から貯めたのに、タンス預金で保管していたため自己資金として評価されなかった。
これではもったいないです。
給料を振り込みではなく、手渡しでもらっているような場合も注意です。
このような時はもらったお金を毎月、預金口座に入れておきましょう。
明細も保管しておくと良いでしょう。
支払いはしっかりと
定期的な支払いを忘れずに
自己資金では支払い状況も審査の対象なっています。
とくに定期的な支払いに気を付けましょう。
たとえば、家賃や電気代、ガス代、携帯料金など定期的に支払うものを確認しています。
この支払いを延滞していたり滞納したりすると審査にマイナスです。
これも、通帳の履歴を見て確認しているので、コンビニ等で支払っている場合は要注意です。
領収書や明細を捨てずに保管しておきましょう。
払い忘れがないように銀行口座からの引き落としにしておくと良いでしょう。
開業業種の経験
開業業種の経験の有無も創業融資の審査で重要なポイントとなります。
当然、経験があった方が審査でプラスです。
実際に、開業する方の多くが経験のある業種で事業を始めます。
まずは経験がある場合、より審査を有利にするにはどうすればよいか書いていきます。
業種経験がある場合はアピールを
年数よりも実績を伝える
審査上なにを見ているかというと、開業業種の勤続年数よりも実績を重視しています。
勤務していた会社で何を成し遂げて、どういう能力があるのか、これが重要になります。
だからといって、1年や2年程度では重要な経験を積むために十分とは考えにくいでしょう。起業に必要な経験を積むにはどうしてもある程度の期間は必要になると思います。
また、どんな実績があるかは本人にしかわかりません。
審査担当者が、勤めていた会社に確認することもありません。
なので、自分から伝える必要があります。
事業計画書に実績を書く
自分の実績を伝える方法としては、事業計画書の経歴の項目に書くことがおすすめです。
例えば営業職だった人なら
20××年 株式会社△△入社
入社3年目には年間で○○○○円の新規契約を獲得。実績が認められその年の社長賞を受賞。
という感じです。
このように書いていけば、なにも書かないよりも「この人は開業後も売上げが作れそうだ」と審査担当者に思ってもらえそうです。
まずは自分がどんなことをしてきたのか、自分自身の棚卸から始めるとよいかもしれません。
面談は事業計画書をもとに進む
日本政策金融公庫の面談、とくに経歴については事業計画書の内容を見ながら進みます。
もちろん、審査担当者によって違いはありますが、私が今まで面談に同席した感覚だとそのような方が多いです。
事業計画書に書いた経歴を見ながら、わからない箇所やもっと詳しく聞きたいところを質問するような進め方です。
また、経歴については約1時間という限られた面談時間のなかで、15分~20分使う担当者もいたりします。
そのくらい大事なのが経歴です。
自分が事業計画書に書いた内容がベースになり、評価になりますので自分の実績を書いてアピールしましょう。
業種の経験が無い場合は他で補う
開業業種の経験がない場合はどうすればよいのでしょうか。
その場合は他の要素で経験がないという事実を補完する必要があります。
どのような方法があるか一例を挙げてみます。
フランチャイズに加盟する
開業する業種の経験がない場合、「フランチャイズに加盟して経験不足を補う」という方法があります。
加盟する本部によってさまざまですが、開業前に研修があったり、開業後にはサポートしてくれるところがあります。
このように、ノウハウの提供を受け、開業後のサポートがあることで経験不足をカバーします。
ただし、デメリットもあります。
例を挙げると以下のようなものです。
加盟するFC本部によって良い本部と悪い本部があるので、見極めが必要。
通常は加盟金や研修費、ロイヤリティーがかかるので、開業費が割高になる。
などがデメリットとしてあります。
フランチャイズのメリットとデメリットを比較してどうするのか決定しましょう。
知り合いに希望する業種のフランチャイズに加盟している人がいれば、直接聞いてみるのも良いと思います。
当事務所のお客様でも、知り合いに評判を聞いたとか、過去の勤務先が加入していたという理由でFC本部を決定した方がいらっしゃいました。
自己資金を貯める
経験不足を補う方法として「自己資金を貯める」というのもあります。
創業融資は「自己資金」と「開業業種の経験」両方あることが望ましいですが、無い場合はどちらかが強くなければなりません。
「自己資金と経験のバランス」ということです。
なので、経験が弱ければ、もう一方の自己資金を強くする必要があります。
以上、2つほど経験不足を補う方法を挙げました。
もちろんこれ以外にも方法はあります。たとえば経験がある人を事業パートナーにするなどですね。
他にどうすれば経験不足をカバーできるのか、考える余地はありそうです。
事業計画書をしっかり書く
ここまで、自己資金と開業業種の経験が審査において重要なポイントと書いてきました。
自己資金と業種経験は今までの積み上げによるものなので、融資を申し込むタイミングで対策することは難しいです。
ですが、事業計画書は融資申込みを間近にしても対策ができる重要ポイントです。
自己資金と業種経験がある人は事業計画書の内容によって、さらに可能性を高めることができます。
逆に、自己資金と業種経験が十分でも、お粗末な事業計画書では審査に通らなくなります。
事業計画書を作る際のコツを解説していきます。
日本政策金融公庫のフォーマットをベースにする
審査担当者はフォーマットに慣れている
日本政策金融公庫の審査担当者は、公庫のホームページからダウンロードできる創業計画書のフォーマットに慣れています。
なので、審査担当者が審査しやすいようにこのフォーマットに合わせて事業計画書を作る方法をお勧めしています。
ただし、フォーマットの記入欄は数行しかないのでそのまま使いません。
Wordなどでフォーマットの各項目を詳しく書き、その要約をフォーマットに書きます。
自分で書いたWordと公庫のフォーマット両方を提出します。
具体的には、以下の項目を詳しく書くとよいでしょう。
1.創業の動機
2.経営者の略歴等
3.取り扱い商品、サービスの内容
4.セールスポイント
5.販売ターゲット・販売戦略
6.競合、市場など企業を取り巻く状況
7.取引先、取引関係等
上記の7項目は、公庫のフォーマットの左側にあるもので、すべて文章で記載するものです。
フォーマットの右側には以下の項目があり、この項目はExcelで作成したものを利用するとよいでしょう。
10.必要な資金と調達方法
11.事業の見通し
「11」の事業の見通しは、Excelで「損益計画書」を3年分(36ヵ月)作成します。
その表から開業当初の損益と軌道に乗った頃の損益をフォーマットに記載します。
Excelで作成した「損益計画書」ももちろん提出します。
文章を書く時はわかりやすい言葉で
事業計画書の文章を書く時はなるべくわかりやすい言葉を使いましょう。
「小学校5年生に説明してわかるように」くらいの文章だとよいです。
例えば、専門用語なんかもそうです。
審査担当者はすべての事業に精通しているわけではありません。
むしろ知らないことの方が多いです。
なので、業界特有の専門用語の意味など当然わかりません。
審査担当者が理解できるように専門用語はなるべく使わないことがおすすめです。
売上げの計画
自分が思うよりも控えめに
Excelなどで売上げの計画を作るとよいです。
これが作れれば、その後の損益計画書や資金繰り表が作成しやすくなります。
現実的なラインで作り提出できれば、審査でも印象は良いでしょう。
売上げの計画を作成する際は、自分が思うよりも厳しめに見積もった数字にすることをお勧めしています。
自分の想定から2~3割程度低く抑えて計画します。
なるべく根拠のある数字で予測を
売上げ予測を作る時はなるべく根拠のある数字がよいです。
「4月はなんとなく60万、5月はなんとなく80万」というアバウトな感じだとよくありません。
勤務経験のある業種で開業する方であれば、どのくらいの売上げが見込めるのか、感覚であると思います。
以下に簡単な例を挙げてみます。
勤め先の1日当たりの売上げは4万円が平均だった。
開業後は25営業日にする予定なので4万円×25日でひと月100万円の売上げ。
という感じです。
厳しく見積もって3万円×25日にしてもよいと思います。
テスト販売をした人なら、その売上実績を採用してみましょう。
ネットショップを例に挙げてみます。
1ヵ月間1品目テスト販売した結果、30万円の売上げだった。
2品目にしたら60万円が見込める。
融資を受けたら4品目扱うので、30万×4品目で120万円。
という感じですね。
フランチャイズに加盟するのであれば、FC本部からシュミレーションや他の加盟店の実績値(自分と似た状況の)をもらって計画を作ると根拠がでてきます。
このように、どうしてその売上計画になったのか。数字の算出過程を明らかにしていくとよいと思います。
損益計画書を作る
売上げを試算したら、経費と利益を試算
売上げの計画ができたら、次に経費がどのくらいかかるのかを計算します。
売上げと経費がわかれば利益もわかります。
ここで作成した損益計画書も提出します。
変動費に注意
変動費とは、一般的に売上げに応じて金額が変わるものです。
売上げが上がれば上がるほど変動費の金額は大きくなります。逆に売上げが減れば金額も少なくなります。
代表的なものとして、飲食店や小売業の仕入れ、運送業の燃料費などが挙げられます。
これも売上げの計画と同様に、勤務時代の経験やテスト販売の実績、FC本部のデータを参考にするとよいと思います。
固定費も計算
売上げに関係なく毎月一定金額かかる費用も計画に入れましょう。
例えば、店舗の家賃や通信費、光熱費などが一般的です。その他にも事業によって諸々の費用がかかります。
何にいくらかかるのか洗い出して計画に組み込みましょう。
利益が出るのかチェック
損益計画ができたら利益をチェックしましょう。
まずは売上総利益。世間的「粗利」と言われるものです。
「売上げ-原価=粗利」
で計算されます。
粗利がマイナスだと、売れば売るほど赤字になります。
マイナスであれば、原価や商品やサービスの単価を見なおさなければなりません。
次に「営業利益」です。
「粗利」から販管費を差し引いたものが営業利益です。
営業利益は本業の儲けをあらわすので、営業利益が赤字のままだと遠からず倒産してしまいます。
粗利の金額を上げたり、固定費を減らすなど対策が必要になります。
そして「経常利益」です。
「営業利益」から融資の利息を差し引いたものが経常利益です。
経常利益がマイナスということは、利息が払えないことになります。
ここが赤字の計画を作ると、利息が払えないことを示していることになります。
費用の削減などをして、なるべく経常利益が黒字になる計画を作るとよいでしょう。
こうしてできた損益計画書の数字を抜き出して、公庫のフォーマットの「11」事業の見通しに記載します。
資金繰り表を作る
資金繰り表も作成できるのであれば、作成したい資料です。
資金繰り表とは簡単に言うと「現金の出入りのみ」を計算する表です。
なので、減価償却など実際に現金が出ていってないものはカウントしません。
「いつ現金が入ってきて、いつ出ていくのか」
これだけを表します。
これも12ヵ月分の表を作って提出したいです。
この表は「現金が入ったタイミング、出たタイミング」で計算されます。
なので、売掛金など売上げてから実際に入金されるまでのタイムラグがわかります。
たとえば、売上50万円が2月に発生。しかし、入金は2か月後の4月。といった場合は2月ではなく4月に50万を計上します。
また、損益計算書では計算しなかった融資の元金返済額も資金繰り表に記載します。
これにより、しっかり返済できることを審査担当者に示す効果もあります。
資金繰り表を作れば、いったいいくら融資を受ければ資金ショートしないのか、余裕をもって営業できるのかもわかります。
というように、この資金繰り表があると会社の資金の流れがわかりやすくなり審査にプラスになります。
以上事業計画書について書いてきました。
資金繰り表は慣れない書類と思いますが、できれば作っていくとよいでしょう。
個人的借入れに注意
個人的な借入れも融資の審査に影響があります。
この借入れについて解説していきます。
ノンバンクやカードローンなどの借入れを控える
ノンバンクやカードローンなどの残債が多額にあると融資は厳しくなります。
なので、利用しない方が賢明です。
カードローンなどで借りたお金の使い道が事業用だったとしても同じです。
事業資金を金利の高いカードローンで調達するなら、公庫で借りた方が金利面でもお得です。
たまにあるケースとして、当初の事業資金をカードローンで100~200万円借りた。
その後に公庫の融資を申し込んだ。
しかし、カードローンの残債が理由で公庫から融資を受けられなかった。
というご相談があります。
このような場合、カードローンより先に公庫に融資を申し込んだ方が、金額も多く借りることができ、金利負担も抑えられたでしょう。
なので、先にカードローンを使ったために、かなり損をしていることになります。
事業用でカードローンを使うのは、いざという時です。
しかも長期の借入れでなく、短期の借入れで。
たとえば、売掛金の入金が月末だが、その間に仕入れ資金の支払いがある。
月末に売掛金が入金されたらカードローンは全て返す見込みがある。
というように、確実に短期間の返済見込みが立つ場合ならカードローンやノンバンクは味方になります。
事業資金目的だけでなく、生活費でカードローンやノンバンクを使っていた場合も審査で不利になります。注意しましょう。
このような借入れが不利になる理由として、開業後の資金繰りがあります。
既存の個人的な借入れの返済に、公庫の返済も加わると、事業の資金繰りが回らないのではないか。という懸念が生まれます。
ここを公庫は気にしているので、残債の額によっては厳しくなるということです。
住宅や車のローンなどは影響が少ない
個人的な借入れといっても、すべての借入れに問題があるわけではありません。
金額にもよるとは思いますが、住宅ローンや車のローン、奨学金などは影響が少ないです。
住宅や車などは高額なため、そもそもローンを組まないと購入できません。
また、金利も低く抑えられています。
このような性質の借入れはさほど問題にはなりません。
今までお手伝いをさせていただいたお客様で、住宅や車のローンがある方も普通に融資を受けることができています。
ということで、公庫は金利の高い借入れを嫌う傾向が強いです。
注意しましょう。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。
ここまで創業融資を通りやすくするための基本的なことをお伝えしてきました。
基本的なことなので、この記事の通りではなくても融資が決まることは普通にあります。
ですが、基本を固めることで融資が通りやすくなることに間違いありません。
記事の内容は以下のものでした。
・自己資金は多ければ多いほど良い
・自己資金の蓄積過程も重要
・支払い状況も審査の対象
・開業する業種の経験がある人は経験をアピール
・年数よりも実績が大事
・開業する業種の経験の経験がない場合は他で補う
・事業計画書は日本政策金融公庫のフォーマットをベースに
・売上げ、損益、資金繰り計画を作る。
・ノンバンクやカードローンなどは控える
少しでもご参考になれば幸いです。