法人を設立するので創業融資を受けたい。
そんなお問い合わせをいただくことがあります。
ですが、必ずしも「法人設立=創業融資」ではありません。
法人設立時の融資でも、創業融資になることもあれば、通常の事業融資になることもあります。
今回はその点について、書いていきます。
なお、違いが分かりやすいように、事業を始める場合と法人成りの場合の二つに分けて書いていきます。
この記事では以下の内容について触れています。
・これから事業を開始する場合の審査基準
・今まで個人事業をしていて、法人成りした場合の審査基準
法人成りと創業時では審査の基準が違う
個人事業主から株式会社などの法人に組織転換する「法人成り」と、
これから法人を設立して事業を始めるような「純粋な創業」では、融資審査の基準がまったく違います。
どのような審査基準になるかというと、
・法人成りの場合
個人事業時代の決算内容などを中心に審査
・これから事業を始めるので法人を設立した場合
自己資金、開業業種の経験、事業計画書などを中心に審査
というように審査の着眼点がまったく別物になります。
次の項目からそれぞれの審査の内容を解説していきます。
まずは新規創業のケースからです。
これから事業を開始する場合の審査基準
新規開業の場合の審査基準の主なポイントは
「自己資金」「開業業種の経験」「事業計画書」になります。
これらの項目について解説していきます。
自己資金
自己資金の金額
自己資金をどのくらい持っているのかが重要です。
多ければ多いほど良いです。
目安としては、総事業資金の1/3以上の金額が銀行口座にあると「理想的」です。
(あくまでも理想)
総事業資金とは、開業時にかかる設備資金と運転資金の総額を合計した金額です。
たとえば、
設備資金 400万円
運転資金 200万円
だとすると、合計600万円が総事業資金となります。
この600万円の1/3である200万円を自己資金で持っていて、
残りの400万円を融資で調達する。
というように1/3を自己資金で。残りの2/3を融資でまかなう。
これが理想的です。
もちろん自己資金1/2、借入1/2だとさらに良いです。
ただ、必ずしも1/3の自己資金を持っていなければならないかといえば、そういうことではありません。
1/4や1/5でも融資はされます。
ですが、自己資金を多くもっている方が有利なことに変わりありません。
また、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は自己資金が1/10あれば申し込めます。
ですが、1/10はあくまで「申し込める条件」です。
1/10の自己資金だとハードルは高くなります。
「土俵にあがる」のと「勝負になるか」は別ものということです。
自己資金が少ないと、確率、融資金額の両方とも厳しくなります。
自己資金=資本金ではない
法人を設立して開業する時のよくある勘違いとして、
設立時の資本金を自己資金と考えてしまう事があります。
創業融資の際の自己資金=資本金の金額ではありません。
自己資金とは、あくまでも通帳にある事業用に使用する予定の金額です。
たとえば、
資本金30万円(資本金は使っていないものと仮定します)と、
資本金の他に事業用に使う予定の手持ち資金が100万円
の合計130万円あったとします。
この場合の自己資金は、資本金の30万円+資本金以外の現金100万円の合計130万円になります。
自己資金の蓄積過程
自己資金は金額のみで審査をしていません。
その他に、自己資金の「蓄積過程」も審査の対象となっています。
1.給料をコツコツ貯める
たとえば、審査時の通帳残高が毎月の給料を貯めてきたものであれば理想的です。
なぜかというと、少しづつ貯蓄してきたということは、開業に向けて計画的に準備してきた。と評価できるからです。
とくに、日本政策金融公庫はこの「準備」を評価する傾向があります。
少しづつ貯めてきたことが分かれば、自己資金が少なめでも、希望通りの金額を融資することがあります。
2.支援金のみは評価が下がる
前掲のように、自分で貯めた現金ではなく、
「通帳にある現金は全て、親族からの支援金です」という場合、自分で貯めた自己資金よりも評価は低くなります。
なぜなら、自己資金の重要な意味である「開業に向けた準備」として評価できないからです。
自分で貯めたお金がそれなりにあって、少し不足するので支援金をもらうケース。であれば問題ありません。
たとえば、自分で貯めたお金100万円。父親から50万円もらう。
合計150万円を自己資金とするようなケースです。
3.見せ金はNG
自己資金を増やそうとして一時的にどこかから借りてくることも考えられます。
ですが、基本的にこのような「見せ金」はバレます。
見せ金をしてバレるくらいなら、何もしない方がましです。
ひとつウソがばれると他のところまで疑われますのでやめましょう。
支払うべきものを支払っているか
お金の蓄積だけでなく、支払い状況も審査基準となっています。
支払い状況とは何かというと、「支払うべきものを期日どおりにしっかり支払っているか」です。
たとえば、毎月の電気代やガス代、携帯代、家賃、税金などがこれにあたります。
期日どおりに支払っていれば、なにも問題ありません。
逆に支払いが滞っていたりすると、「お金にだらしない人」という評価をされてしまいます。
そのような人に本当に返済してもらえるのか、怖くてお金を貸すことができません。
見落としがちな点ですが、重要な点なので注意しましょう。
とくに税金の滞納があると融資が受けられません。
開業業種の経験があるか
創業融資では「開業業種の経験」も審査の対象となります。
どのような点が審査で重要なのか見ていきます。
開業する業種の経験があると有利に
開業する業種での勤務経験があると審査にプラスとなります。
勤務経験がない人よりも、ある人の方が業務の内容を知っているため、事業がうまくいきやすい、と評価されます。
金融機関としても事業が成功する可能性の高い人に貸したいです。
しっかり返済されないと困りますので。
また、日本政策金融公庫の融資先を調査した資料によると、
勤務経験がない人はある人よりも返済できなくなる確率が高い、という調査結果がでました。
この調査結果からも、返済の可能性がある方が有利になるとわかります。
勤務年数より実績
開業業種の経験で大事なのは年数よりも、勤務時代の実績です。
勤めた期間よりも、「勤務期間に何を経験した」のか。
これが審査のポイントです。
例えば営業職だった人なら
20××年 年間で○○○○円の契約実績。○○件の新規顧客を開拓。業績が評価され社長賞を受賞。
というように、何を経験したのか、自分の強みは何なのかをアピールしましょう。
自身の経験は事業計画書に記載して、担当者が読めるようにしていくと良いです。
勤務経験がないから融資しないではない
開業業種の経験があると、融資に有利と書いてきました。
しかし、勤務経験がないからといって必ずしも融資しないわけではありません。
経験がなくても融資はします。
ただし、大きな金額は出にくくなるなど、不利な部分はどうしても出てきてしまいます。
経験がないことに加えて、自己資金も少ないとなると、融資はかなり厳しくなります。
経験が少なければ、自己資金を多く。
自己資金が少なければ、自己資金不足を補う経験が必要です。
事業計画書の内容
事業計画書の内容も審査に影響します。
事業計画書を書く際に抑えておきたいポイントを解説していきます。
事業計画書は分かりやすく
事業計画書は自分の事業の強みなどが、わかりやすく記載されていると良いです。
内容が分かりにくい事業計画書を作成しても、審査する側に正しく伝わりません。
だからといって、数十ページもある計画書を作っても、今度はすべて読むことができません。
なので、ポイントをしぼって10~20ページ位にまとめて、審査しやすくしていきましょう。
そのために、最低限必要なものについて書いていきます。
フォーマットを提出
日本政策金融公庫で創業融資を受ける場合、公庫に「新創業融資制度」のフォーマットが用意されています。
このフォーマットの各項目を埋めて提出します。
以下フォーマットの項目を挙げてみます。
1.創業の動機
2.経営者の略歴等
3.取り扱い商品、サービスの内容
4.セールスポイント
5.販売ターゲット・販売戦略
6.競合、市場など企業を取り巻く状況
7.取引先、取引関係等
8.従業員
9.お借入れの状況
10.必要な資金と調達方法
11.事業の見通し
12.自由記入欄
以上を埋めて提出します。
フォーマットの記載事項を別紙にまとめる
公庫のフォーマットを埋めて提出すると書きました。
ですが、フォーマットの記入欄だけでは記載しきれません。
例えば、創業の動機などは4行しかありません。
4行で自分の想いを表現するのは不可能です。
なので、フォーマットで表現しきれないところは、別紙に書いて提出します。
どの項目を詳しく別の紙に書いていくのか。
当事務所の例を挙げてみます。
上記「1」創業の動機、
「2」経営者の略歴、
「4」セールスポイント、
「5」販売ターゲット・販売戦略、
「6」競合、市場など企業を取り巻く状況、
「7」取引先、取引関係
をWordで詳しく書き「創業計画書 補足資料」という題名で提出します。
この補足資料で書いた内容を要約したものを、フォーマットに記載します。
「11」の事業の見通しは、Excelで「損益計画書」を3年分(36ヵ月)作成します。その表から開業当初の損益と軌道に乗った頃の損益をフォーマットに記載します。
Excelで作成した「損益計画書」ももちろん提出します。
可能であれば資金繰り表も作成
資金繰り表も作成できるのであれば、作成したい資料です。
資金繰り表とは簡単に言うと「現金の出入りのみ」を計算する表です。
なので、減価償却など実際に現金が出ていってないものはカウントしません。
「いつ現金が入ってきて、いつ出ていくのか」
これだけを表します。
これも12ヵ月分の表を作って提出したいです。
とくにこの資金繰り表があると、会社の資金の流れがわかりやすくなります。
返済ができることを示せる書類となりますので、ぜひ作りましょう。
その他の要素
個人的債務が多額にあるかどうか
カードローンや消費者金融などの残債が多額に残っていると、審査では不利になります。
金額しだいでは、これが原因で否決になることもあります。
仮に融資したとしても、既存の借入れの返済に創業融資の返済も加わると、
資金繰りが厳しいのではないか。という判断になります。
なるべく、カードローンや消費者金融の利用は控えておくと良いです。
販路はあるのか
販売先が具体的に決まっているとプラスです。
たとえば、A社と取引が決まっていて、開業すればすぐにA社からの売上げがある。
実際にA社と契約書も交わしている。
という状態だと審査にプラス要素として作用します。
以上、新規開業の場合の審査基準について解説してきました。
ここに書いたものは重要なポイントのみなので、記載した内容以外のことも総合的に考慮して審査をしています。
次の項目では、個人事業から「法人成り」したタイミングでの融資について書いていきます。
今まで個人事業をしていて、法人成りする場合の審査基準
この項目では、法人成り直後に融資を申し込む場合、金融機関はどのような点を審査しているのか書いていきます。
分かりやすいように、細かいところは除き、基本的なところをまとめました。
審査の基準は全然違う
純粋な創業で融資を受ける場合と、法人成りと同時に融資を受ける場合の審査基準は全く違います。
簡単にどのような違いがあると言うと、
これから事業を始める人
自己資金や開業業種の経験、事業計画書の内容、個人的借入れ、etc.
で審査されます。
法人成りした会社
過去2~3期分の決算内容
で審査されます。
このように、まったく融資審査における着眼点が異なってきます。
どのようなところを審査しているのか?
ここからは、はじめて決算書を見た時に注意して見ている箇所を書いていきます。
なお、日本政策金融公庫は直近2年分の決算書を、
信用保証協会を使う場合は、直近3年分の決算書を提出します。
まだその年数分の業歴がなければ、開業から今までの決算書全てを提出します。
個人事業時代の業績
金融機関に直近2~3年分の決算書を提出します。
その決算書の内容を見比べて業績の推移を見ています。
個人事業の決算書を見る場合は、貸借対照表よりも損益計算書に注視します。
たとえば、損益計算書のどのように見ているかというと、
・前期、前々期というように期間比較して、年商はどのくらい金額があるのか、売上げは伸びているのか、減っているのか。
・利益はどのくらいの金額があるのか、黒字なのか、赤字なのか。
・最終利益の金額+減価償却費の金額で生活費を出せるくらいあるのか。
・前期と前々期で大きく変動した勘定科目はないか。
というようなところを、はじめて損益計算書を見るときは気にしています。
気になるところがあれば、適宜質問をしていきます。
今後の見込みはどうなのか?
決算書で過去の実績を把握した後は、今後の見込みがどうなっているのかを確認します。
融資をしても、今後返済見込みがないのでは融資できません。
融資を申し込むからには、資金が必要になった理由があるはずです。
資金の使い道が、前向きであれば融資もしやすいでしょう。
逆に、使い道が後ろ向きであれば融資はしにくくなります。
前向きな使い道とはどういうものか、例を挙げてみます。
・売上げが増加したので、仕入れ資金が必要になった。
・スタッフを雇う必要があるので、人件費が必要。
・2店舗目を出店するので、出店費用が必要。
というように業績の向上が見込めれば融資もやりやすいです。
逆に赤字の穴埋めに使うというような場合は後ろ向きな使い道となり、
融資はしにくくなります。
今後の見通しを示すには、融資を受けた場合の効果を事業計画書にまとめて提出するとよいでしょう。
返済はできそうなのか?
損益計算書をみると返済原資がでるのかがわかります。
長期の融資を受ける場合は次の計算式で判断してます。
・最終利益+減価償却>年間返済額
になるかどうか。
たとえば、
最終利益300万円+減価償却100万円=400万円
400万円>年間返済額100万円
という計算ができれば返済できそうだと言えます。
個人的な借入れはどうなのか?
個人的な借入れ(消費者金融やカードローン)の残債や月々の返済金額がどのくらいあるかも審査します。
特に日本政策金融公庫はこのような借入れを嫌う傾向があります。
残債や年間の返済額が多額にある場合、この借入れが原因で否決されることもあります。
まとめ
以上、新規開業と法人成り時の融資審査の基準について書いてきました。
まとめとしては、
新規開業の審査基準
・自己資金
・開業業種の経験の有無
・事業計画書の内容
・個人的借入れ
法人成りの審査基準
・直近2~3期の損益推移
・今後の見込み
・返済原資の有無
・個人的借入れ
というように、両者はまったくの別物といってもよいでしょう。
特に、法人成りした場合は過去の営業実績の影響がとても大きいです。
営業実績が少しでもある場合は、業績が審査に必ず影響を与えます。
1期でも決算が終われば、決算内容によって融資の結果が左右されるということです。
過度な節税はせずに、適度に節税をして利益を残し、財務の健全化を図ることが大切です。
少しでもお役に立つ内容であれば幸いです。