会社形態で創業融資に有利、不利はあるのでしょうか。
今回はこの点について書いていきます。
先日、お客様からこんな内容の質問をされました。
「株式会社が信用力があり良いと思いますが、合同会社でも融資は大丈夫なんでしょうか?」
他の方にも、このような趣旨の質問をされることはよくあります。
そこで、この記事で解説していきたいと思います。
合同会社でも創業融資で不利にはならない
結論から言うと、合同会社だから創業融資に不利、ということはありません。
実際、私が創業融資をお手伝いさせていただいた合同会社でも満額融資されています。
合同会社が不利ではない理由は、株式会社や合同会社といった会社形態で融資の審査をしていないからです。
融資審査の基準は自己資金や開業業種の経験といったところになります。
つまり、開業する人の「実態」を審査しているのです。
株式会社、合同会社、個人事業主といった事業形態で審査はしていないんです。
合同会社よりも不利そうな個人事業主でも融資はでている
株式会社や合同会社よりも信用力が劣りそうなイメージのある個人事業主でも、創業融資は出ています。
当事務所でお手伝いさせていただいたお客様の半数以上は個人事業で開業する方でした。
開業当初は個人事業で、ある程度軌道に乗ったら法人化を考える人が多いです。
開業時から法人にする方は、取引先から「株式会社じゃないと取引できない」「法人口座を作ってくれ」と言われるなど、顧客からの信頼性といった理由で法人を設立する方が多い印象です。
話がそれましたが、なぜ、世間一般的に信頼性が劣る個人事業主でも融資がでるのでしょうか。
それは、創業融資の審査基準をクリアしているからです。
逆に言うと、世間的に信用性がある株式会社でも審査基準を超えることができなければ、融資はされません。
では、その創業融資の審査基準とは何なのでしょうか。
次項から解説していきます。
創業融資の審査基準とは
それでは、創業融資の審査基準とはどのようなものなのでしょうか。
重要なポイントを挙げてみます。
自己資金
自己資金=通帳にある現金残高です。
自己資金の金額とその蓄積過程を個人の預金通帳などから審査しています。
開業業種の経験
開業する業種の経験があるのか、それとも未経験なのか。
サラリーマン時代の実績、経験してきたことなども含めて審査しています。
当然、経験がある方が有利なのは言うまでもありません。
事業計画書
事業計画書の内容はしっかりしているか。
収支計画や事業内容は具体的に、かつ分かりやすく書かれているか。
売上げや費用、資金繰りの予測は適切かどうか。
もちろん、しっかりと返済できるという計画にしなければなりません。
審査基準の概要は以上のようになります。
次項から各項目を詳しく解説していきます。
まずは最重要ポイントの「自己資金」から。
自己資金
自己資金を審査しているといっても、金額のみを審査しているのではありません。
金額はもちろんですが、他にも審査している箇所があります。
順に解説していきます。
自己資金の金額はどのくらいあるのか
総事業資金の3分の1以上の金額が銀行口座にあると理想的と言われています。
総事業資金とは、開業時にかかる設備資金と運転資金を合計した金額です。
たとえば、
設備資金 400万円
運転資金 200万円
だとすると、合計600万円が総事業資金となります。
この600万円の3分の1である200万円を自己資金で持っていて、残りの400万円を融資で調達する。
このように3分の1を自己資金で。残りの3分の2を融資でまかなう。
ということができると理想的です。
ただ、必ずしも3分の1の自己資金を持っていなければならないかといえば、そうではありません。
4分の1や5分の1でも融資はされます。
少ない自己資金で融資を申し込む際は、開業業種の経験など他の要素でプラス評価を得る必要があります。
また、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は自己資金が10分の1あれば申し込めます。
ですが、10分の1はあくまで「申し込める条件」です。
10分の1の自己資金しかなければ、ハードルは高くなります。
「土俵にあがる」のと「勝負になるか」は別ものということです。
自己資金が多いほど可能性は上がる
自己資金は「総事業資金の3分の1が理想」と書きましたが、それ以上に持っていれば、さらに有利になります。
たとえば、総事業資金の2分の1自己資金があれば融資の確率はさらに上がります。
自己資金が多ければ、大きい金額の融資も可能
自己資金の金額が大きければ、融資を受けられる金額も大きくなります。
たとえば、自己資金が50万円で500万円の融資を受けようとすると、ハードルは高いです。
ですが、自己資金が600万円あれば1000万円の融資も可能になります。
このように、自己資金があればあるほど、融資の確率、融資金額ともにプラスの効果があります。
逆にいえば、自己資金が少ないと、確率、融資金額の両方とも厳しくなるということです。
自己資金の蓄積過程
自己資金は金額のみで審査をしていません。
自己資金の蓄積過程も審査の対象となっています。
給料をコツコツ貯める
たとえば、審査時の通帳残高が毎月の給料を貯めたものであれば理想的です。
なぜかというと、少しづつ貯蓄してきたということは、開業に向けて計画的に準備してきた。と評価できるからです。
創業融資ではこの「準備」を評価する傾向があります。
少しづつ貯めてきたことが分かれば、自己資金が少なめでも、希望通りの金額を融資することがあります。
支援金のみは評価が下がる
前掲のように、自分で貯めた金額ではなく、「通帳にある現金は全て親族からの支援金です」という場合、自分で貯めた自己資金よりも評価は低くなります。
なぜなら、自己資金の重要な意味である「開業に向けた準備」として評価できないからです。
見せ金はNG
自己資金を増やそうとして「一時的にどこかから借りてきてもだめですか?」と聞かれることがあります。
ですが、基本的にこのような「見せ金」はバレます。
ひとつウソがばれると他のところまで疑われますのでやめましょう。
定期的な支払いは遅れない
お金の蓄積だけでなく、支払い状況も審査の対象です。
どういうことかというと、「支払うべきものを期日どおりにしっかり支払っているか」です。
たとえば、毎月の電気代やガス代、携帯代、家賃などの定期的な支払いです。
この支払いが滞っていたりすると、本当に返済してもらえるのか、怖くてお金を貸すことができません。
日本政策金融公庫は最低3種類支払いができているか通帳の履歴で確認しています。
開業業種の経験
続いて「開業業種の経験」も重要なポイントです。
どのような点が審査で重要なのか見ていきます。
開業する業種の経験があると有利
開業する業種での勤務経験があると審査にプラスとなります。
勤務経験がない人よりも、ある人の方が業務や業界を知っているため、事業がうまくいきやすい。と評価されます。
事業がうまくいきやすい=返済の可能性が高いと言えます。
また、日本政策金融公庫の融資先を調査した資料によると、勤務経験がない人はある人よりも返済不能になる確率が高い。という調査結果がでました。
この調査結果からも、勤務経験がある方が有利になるとわかります。
自己資金不足を補う効果がある
勤務経験があると、自己資金が多少不足していても、その自己資金の弱さを補う効果があります。
経験や実績は十分にあるが、自己資金が若干少ない。といった時に、「自己資金は少し足りないけど、経験がこれだけあれば融資しても大丈夫だろう」という判断になることがあります。
ただ、あまりにも自己資金が不足する場合は経験で補いきれません。
自己資金と勤務経験、双方のバランスが評価の対象となります。
勤務年数より実績
開業業種の経験で大事なのは年数よりも、勤務時代の実績です。
勤めた期間よりも、「勤務期間に何を経験した」のか。
これが審査のポイントです。
かといって、1,2年の経験では弱いといえます。その職業で必要なスキルやノウハウを身につけるには、ある程度の時間がかかるでしょう。
ちなみに、自身の経験したことは自分から発信しなければ、融資担当者には伝わりません。
自分の強みは何なのかを事業計画書に記載して、担当者が読めるようにしていくと良いです。
経験不足をフランチャイズで補う
開業する業種の経験が無い場合、開業業種のフランチャイズに加盟するのも、ひとつの解決策です。
フランチャイズのノウハウを利用することで、自分の経験不足をカバーします。
フランチャイズは既に完成されたビジネスモデルを利用することがメリットとしてある反面、デメリットもあります。
フランチャイズ本部にもよりますが、自由が制限されることが多いです。
また、加盟金や研修費などが高額になることもよくあります。
このようなメリット、デメリットを考慮して決めましょう。
事業計画書
事業計画書の内容も審査に影響します。
いくら自己資金や開業業種の経験があっても、事業計画書がお粗末な内容ではどうしようもありません。
事業計画書で将来的に事業がどうなるのか、返済できるのか示しましょう。
審査担当者が将来性を見込めなければ融資はできません。
事業計画書は分かりやすく
事業計画書は自分の事業の強みなどが、わかりやすく記載できると良いです。
また、IT事業や特殊な技術など専門用語が難しい業種は、一般の人でもわかる言葉に置き換えましょう。
「小学5年生に事業の説明をして理解してもらえる言葉で書く」というのを意識すると良いです。
内容が分かりにくい事業計画書を作成しても、審査する側に伝わりません。
ページ数も気を配りましょう。
事業計画書と言えば数十ページや数百ページ作らなければと思う方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、そのような計画書を作ったとしても、融資担当者はすべて読むことができません。
なので、ポイントをしぼって10ページ位にまとめて、審査しやすくしていきましょう。
最低限必要なものについて解説していきます。
フォーマットを提出
日本政策金融公庫で創業融資を受ける場合、公庫に「新創業融資制度」のフォーマットが用意されています。
このフォーマットの各項目を埋めて提出します。
以下フォーマットの項目を挙げてみます。
1.創業の動機
2.経営者の略歴等
3.取り扱い商品、サービスの内容
4.セールスポイント
5.販売ターゲット・販売戦略
6.競合、市場など企業を取り巻く状況
7.取引先、取引関係等
8.従業員
9.お借入れの状況
10.必要な資金と調達方法
11.事業の見通し
12.自由記入欄
以上を埋めて提出します。
フォーマットの記載事項を別紙に書く
公庫のフォーマットを埋めて提出すると書きました。
ですが、フォーマットの記入欄だけでは記載しきれません。
例えば、創業の動機などは4行しかありません。
4行で自分の想いを表現するのは不可能に近いです。
なので、フォーマットで表現しきれないところは、別紙に書いて提出します。
別紙に書いた内容を要約して、フォーマットに記載します。
「11」の事業の見通しは、Excelで「損益計画書」を3年分(36ヵ月)作成します。
その表から開業当初の損益と軌道に乗った頃の損益をフォーマットに記載します。
Excelで作成した「損益計画書」ももちろん提出します。
資金繰り表を作成
資金繰り表も作成できるのであれば、作成したい資料です。
資金繰り表とは簡単に言うと「現金の出入りのみ」を計算する表です。
なので、減価償却など実際に現金が出ていかないものはカウントしません。
「いつ現金が入ってきて、いつ出ていくのか」
これだけを表します。
これも12ヵ月分の表を作って提出したいです。
この資金繰り表があると、会社の資金の流れがわかりやすくなります。
返済ができることを示せる書類となります。
その他
前掲した内容以外に融資にプラスに作用したことをいくつか書いていきます。
すべて当事務所のお客様の事例です。
自治体の創業セミナーを受ける
各市町村で「創業セミナー」が行われています。
この創業セミナーを修了すると、融資審査にプラス効果があります。
創業セミナーを修了すると、公庫や制度融資で通常よりも利息の負担を抑えることができます。
この利息軽減以外に、そもそも融資が借りやすくなる効果があります。
これは、お客様の創業融資の面談に同席したときのことですが、公庫の担当職員に「創業セミナーを修了してます」と伝えました。
すると、その職員さんが「創業セミナー終えてるんですね。プラスになりますよ」という話をされていました。
公庫では融資の判断そのものに良い影響があるようです。
売上げを作る
創業融資を申し込む時点で売上げがあるとプラスです。
テスト販売でもかまいません。
実際に売れているのと、融資申込み段階で販売実績がない状態とでは評価は違ってきます。
これも公庫の職員さんの話で「売上げの実績が1件でもある人と、まだ0件の人では全然違います」と話していました。
すでに売上げの実績があれば、「今後も販売できるだろう」と予想できます。
売上げの事実を証明できる書類を添付資料として提出しましょう。
事業パートナーがいれば伝える
一緒に事業を行うパートナーがいれば、プラスになることがあります。
パートナーの人との関係にもよりますが、自分の不得意な部分をカバーしてくれる人がいると心強いです。
また、困難なことにぶち当たっても1人より克服しやすいでしょう。
パートナーがいるなら、事業計画書に記載して、審査の際に伝わるようにしておきましょう。
まとめ
創業融資は株式会社や合同会社、個人事業といった事業形態で有利、不利はありません。
あくまでも開業する人の実態を審査して判断されます。
創業融資の審査基準として重要なポイントも挙げましたが、この記事に書いた内容以外のことも総合的に考慮して決められます。
個人的な借入れ状況なんかが代表的な例です。
総合的に見てプラスの要素がどれだけあるのか?
マイナスの要素はないか、あっても致命的ではないか?
というように、事業形態うんぬんではなく、本質的なところで審査されます。
開業する方の状況次第で結果は左右されますが、合同会社でも創業融資を受けることは十分可能です。
弊所では合同会社の創業融資もサポートしております。お気軽にご相談下さい。