創業融資を受けるためには何をすればよいのでしょうか。
融資を受けることができた人には、融資を受けられた理由があります。
今回は当事務所のお客様で無事に創業融資を受けた方の事例を書ける範囲でまとめてみました。
何が金融機関に評価されたのか、その要因を解説します。
創業融資の審査のポイントを解説
まず前提として、創業融資の審査の重要ポイントを解説します。
創業融資で特に重要視しているポイントは以下の3点です。
1、自己資金
2、開業業種の経験
3、事業計画書の内容
これは、日本政策金融公庫も信用保証協会の保証付き(制度融資)の場合も同じです。
では、それぞれどのようなところが審査されるのでしょうか。
自己資金
自己資金と融資希望額のバランス
一例を挙げると、600万円の融資希望額に対し、自己資金が50万円だと融資は無理です。
しかし、同じ600万円という金額でも、自己資金を200万円位持っていると可能性は十分です。
日本政策金融公庫の職員によると、
「自己資金を貯めてきた人は、開業にむけてしっかりと準備をしたという評価をしている」とのことでした。
公庫はこの「開業への準備」に重点を置いています。
そのため、「自己資金を貯める」=開業に向けて準備した努力を、通帳の履歴から客観的に証明できる。
ということになり、創業融資の審査において強力なプラス材料になります。
ちなみに、創業融資の審査では個人の預金通帳を必ず確認されます。
自己資金の出どころ
たとえば、審査時の通帳残高は毎月給料を貯めたものであれば問題ありません。
そうではなく、「通帳にある現金は全額親族からの支援金です」という場合、自分で貯めた自己資金よりも評価は低くなります。
なぜなら、自己資金の重要な意味である「開業に向けた準備」として評価できないからです。
また、通帳にあるお金は消費者金融で借りたものであれば、自己資金としての評価はできません。
通帳のお金がどこから来たものか、というのも重要です。
支払うべきものを支払っているか
毎月の光熱費や携帯の料金、家賃など決まった時期に支払うものを支払っているのか。
見落としがちですが、これも重要なポイントです。
支払いが滞っていたりすると、本当に返済してもらえるのか、怖くてお金を貸すことができません。
他にも、税金の滞納も要注意です。
納める義務があるのに納めていない場合、基本的に融資はできません。
ただし、合法的に免税になっていて納める必要がない場合はこの限りではありません。
開業業種の経験
開業する業種の経験がない人よりもある人の方が融資をしやすいです。
開業業種の経験があった方が事業も成功しやすいだろうということです。
実務経験が豊富であれば、多少自己資金が少なくても希望通りの金額で融資をすることがあります。
業種経験には自己資金不足を補う効果もあるのです。
日本政策金融公庫の追跡調査では、業種経験がない人はある人よりも貸倒率が高くなる、
という調査結果をだしていました。
貸倒率が高いと当然融資はしにくくなります。
勤務年数より実績重視
経験で評価されるのは勤続年数はもちろんですが、それ以上に勤務期間に得たものや実績を重視します。
働いている間に得た経験やノウハウが開業後にどう活かせるのか、これを伝えることが大切です。
事業計画書の内容
事業計画書もしっかり作っていく必要があります。
たとえば、当事務所では
「売上げ予定表」
「損益計画書」
「資金繰り表」
「事業内容等を文章化したもの」
以上の4点を必ず作成して金融機関に提出しています。
ここまで作りこんでいくと「しっかり作っていただいて」と面談の時に担当者から言われます。
事業計画がわかりやすい=事業の内容や資金計画が把握しやすい=審査しやすい=融資もできる
ということになります。
日本政策金融公庫の職員によると、損益計画書が全く体裁を成していない事はよくあると言っていました。
自己資金や経験の条件を満たしていても、事業計画書の出来が悪くて否決されてはもったいないですね。
以上が創業融資のポイントになります。
ここまでの内容をふまえて、次項から事例を見ていきます。
自己資金が多く、フランチャイズに加盟した事例
まず最初の事例です。
この方は1,200万円の融資を受けた方です。
車関係の事業を開業なさいました。
融資実行までの経緯
車関係の事業での開業でしたが、前職はIT企業にお勤めで、創業融資のポイントである開業業種の経験はありませんでした。
事業を始めるにあたって、昔からの友人が経営しているフランチャイズに加盟しての開業を選びました。
このフランチャイズの加盟により、直接の経験よりは弱いですが、ある程度経験不足を補うことができたのです。
他方、業種経験はありませんでしたが、自己資金はお持ちでした。
当事務所にご相談に来られる前に、自分で貯めた給料から200万以上をフランチャイズ本部に支払い済みでした。
この200万以上は自己資金として「みなす」ことができます。
さらに、勤めているIT企業から高額な退職金がでており、退職金を自己資金として使うことができたのも大きなプラス要因となりました。
開業業種の経験はありませんでしたが、IT企業に勤めていた時の経験面でもプラスになる要素をお持ちでした。
前職ではネット広告関係の業務をしており、ネット集客のノウハウが一流だったのです。
そこで、この集客スキルもアピールすることにしました。
事業計画面では、フランチャイズ本部に他店の実績データをいくつか提供してもらい、開業後の現実的な事業計画書を提出できたことが大きいです。
結果的には希望通りの金額で融資されました。
この事例のポイント
自己資金を十分に持っていた
このケースは1,200万円という高額なものです。
仮に自己資金が100万、200万ではおそらく、希望通りの金額で決まっていないと思います。
ご自身が給料で貯めた金額をフランチャイズ本部に払い、その金額を自己資金として評価できたこと。
かなりの金額の退職金が入り、退職金が減る前に融資を申し込んだこと。
ここがこの事例のポイントだと言えます。
開業業種の経験の無さをフランチャイズで補った
前職のIT系から車関係というまったく違う業種の開業でしたが、フランチャイズの加盟により経験の無さを補えました。
仮にフランチャイズに加盟せず、独力で開業していたら融資は受けられたとしても、希望通りの金額で決まらなかった可能性があります。
事業計画書に他店のデータを利用できた
事業計画書を作る際に、フランチャイズ本部にお願いして他店の実績データをもらえないか提案しました。
本部から3店舗ほど提供してもらえたので、そのデータをもとに現実的なラインで事業計画書を作成できたこと。
さらに、他店のデータも金融機関に提出して、実現可能性を示したことが根拠のある客観的な計画として評価されたと考えられます。
このようにして、創業融資のポイントである「自己資金」「開業業種の経験」「事業計画書の内容」を満たし、無事に創業融資を受けることができました。
開業後はFC本部の協力や前職で身につけたネット集客のノウハウを生かして集客をし、忙しく営業されています。
1年開業を延期させた事例
続いての事例です。
この方は800万の融資を受けて写真館を開業なさいました。
融資実行までの経緯
前職の写真館に入社以来、ご自身のお店を開業することを目標に仕事をして経験を積んできました。
当事務所にご相談に来られる1年前に日本政策金融公庫に相談していました。
ですが、自己資金を貯めてきていたものの、タンス預金として所持していたため、自己資金として評価できないことがわかったそうです。
また、コロナ禍ということもあり、その時は開業を思いとどまりました。
それから、タンス預金で所持していたお金を通帳に入れ、さらに1年間毎月の給料からコツコツ貯蓄していました。
開業業種の経験としては10年ほど同じ写真館に勤務しており、店長職を勤めるなど審査にあたり申し分のないものでした。
また、競合他社とは違う写真の技術を身につけていたため、それも強みとしてお持ちでした。
事業計画書では当事務所が必ず作成する、「損益計画書」「資金繰り表」「事業内容を文章で表したもの」を作成。
セールスポイントは他店とは違う撮影技術だったため、文章で表現するよりも実際の写真を提出した方が審査しやすいだろうと判断し、撮影した写真をポートレート集にして提出しました。
審査の結果としては希望通りの金額で決まりました。
この事例のポイント
1年前に融資を申し込まず、自己資金を貯めた
仮に1年前の公庫に相談したときに、そのまま申し込んでいたら融資は受けられなかったと推測されます。
理由としては、1年前の段階では自己資金が「タンス預金」だったからです。
基本的にタンス預金は自己資金として評価されません。
そのため、1年前であれば開業業種の経験は十分だけれども、自己資金がゼロなので否決。
という可能性が高かったと思われます。
そこで、タンス預金を銀行口座に入れ、さらにこの1年間の給料を着実に蓄積したことで、公庫が重視する「開業に向けての準備」ができていると評価されました。
開業業種の経験が十分だった
前職の勤め先に入社した時から、将来的に開業することを目標として勤務していらっしゃいました。
そのため、撮影技術を磨いたり、店長職について集客や労務管理なども行っていました。
10年以上勤めており勤務年数、実績ともに素晴らしいものとなっていたのです。
他店との差別化を事業計画書で表現
セールスポイントは撮影技術にあったのですが、それを言葉で表現するのは難しいです。
そこで、その撮影技術を使った実際の写真を見せることで他社とは違うことをアピールできました。
開業業種の経験の経験は十分にありました。
さらに、1年かけて自己資金を蓄積してきたことで創業融資の条件を満たし、希望通りの金額で融資を受けることが可能になりました。
事業計画では開業当初の集客は少ない予定でしたが、いざ開業すると翌月から予約でいっぱいになる日も増え、想定した以上の結果が出ているようです。
副業で売上げを作っていた事例
最後の事例になります。
この方は600万円の融資を受けた方です。
ネット販売で開業なさいました。
融資実行までの経緯
ネット販売での開業でしたが、前職は医療系にお勤めで、創業融資のポイントである開業業種の経験はありませんでした。
医療系のお仕事をしながら副業としてネット販売をしていました。
1年ほど試行錯誤を繰り返し、当事務所へご相談に来られる前月に十分な売上げを作ることができました。
そこで、売上げを作る方法もわかったことから、副業としてのネットショップを本業にするために融資が必要となったのです。
自己資金も多額にあるわけではなく、業種的にも大きい金額の融資は厳しいと言われているため、公庫と信用金庫の両方から融資を受けることを相談し決定。
事業計画書の作成では前月の売上実績を根拠に、現実的な売上げを計画しました。
その計画で利益がでること、問題なく返済できることを示して融資の申し込みに至ります。
結果は公庫、信用金庫ともに希望通りの金額で融資されました。
この事例のポイント
実際に売上げを作っていた
実際に数十万円の売上げをあげることができていたため、開業後も同じ方法で売上げが見込めたこと。
さらに、その翌月に申し込めたことがプラスに働きました。
仮に半年営業した後に融資を申し込んだ場合、それまでの業績が審査の基準となるため、半年間の実績によっては希望額に届かない可能性が十分ありました。
なので、売上げ実績を作ってすぐに申し込めたのはプラスでした。
申込み金額が多くなかった
総額で600万円の融資になりましたが、公庫と信金でそれぞれ300万ずつ申し込みました。
ひとつの金融機関で300万円はそれほど大きい金額ではないので、多額の融資は難しい言われる業種でも融資ができたと考えられます。
事業計画書を根拠あるものにした
実際の売上実績をもとにして、現実的な売上計画を作成できました。
その他にも損益計画書と資金繰り表を作成し、返済が可能であることを説明しました。
このケースは創業融資のポイントである「開業業種の経験」がなくその点は不利にはたらきました。
しかし、ご自身で試行錯誤を繰り返し実際にある程度の売上げを作ったこと、「事業計画書の内容」に実現達成の根拠を持たせることができたことで、無事に創業融資を受けることができました。
さいごに
以上、創業融資に成功した事例を解説いたしました。
無事に融資を受ける方の共通点としては、「自己資金」や「開業業種の経験」がある方が多いです。
しかし、無いからといってすぐにあきらめるのは早いとも思います。
解決方法があるかもしれません。
私自身もお客様からお話を伺った時「厳しいかも」と思う方が、融資を申し込んだら審査を通ることもあります。
お客様と接していると、自己資金や経験という事前の準備は大切ですが、「あきらめない」という気持ちも大切だと感じています。
弊所では創業融資のご支援を承っております。お気軽にお問い合わせください。