開業時は融資を受けることができます。
ですが、その融資に勘違いがされていることがあります。
それは、「売上実績がないといけない」という勘違いです。
今回は実際にあったご相談をもとに解説していきます。
少しでもお役に立つ内容であれば幸いです。
実際にあった相談内容
先日、こんなご相談がありました。
Aさん「先月会社を設立しました。銀行に融資の話をしたら実績がないと無理です。売上げができてから来てくださいと言われました。」
Aさん「そこで顧問契約した税理士に日本政策金融公庫はどうか聞いたところ、売上実績がないと無理です。といわれてしまいました。本当にそうなのでしょうか?」
私「そんなことありませんよ。売上実績無くても創業融資は使えますよ。」
というようなやり取りをしました。
このように売上げがないと創業融資はできない、と誤った理解をされていることがあります。
しかも今回は銀行員さんと税理士さんがそう理解していました。
税理士さんは融資を扱わない方も大多数いるので、これは仕方がないことだと思います。
税理士さんはあくまでも税金、税法の専門家で、融資の専門家ではありません。
また、銀行員さんの場合もある程度は理解できます。
なぜかというと、1年間で銀行の各支店に持ち込まれる創業融資案件は数件程度です。したがって、若い行員さんなどは創業融資を扱ったことがない、ということも普通にあります。
その場合、前述のような対応をされてしまうことも十分あり得るのです。
売上実績がなくても創業融資は受けられる
前掲した私の回答のとおり、売上げがまだなくても創業融資は受けられます。
これまで何件も創業融資のご依頼をいただきましたが、その7~8割くらいはまだ売上げがない方たちでした。
それでも無事に融資は実行されています。
融資がないと開業できないことは多い
店舗系のビジネスに多いのですが、そもそも融資を受けないと事業自体が始められない、ということはよくあります。
つまり、創業融資を申し込む時点では事業が始まっていません。当然売上げもありません。
融資が実行されて店舗の契約や内装工事などを経て、実際に開業してはじめて最初の売上げが立ちます。
創業融資は売上げを作るための融資といえます。
利用できる創業融資制度
では、この創業融資ですがどこから受けられるのでしょうか。
基本的には日本政策金融公庫か信用保証付きの融資のどちらかになります。
この項目では代表的な制度を紹介します。
日本政策金融公庫のメリット
まずは日本政策金融公庫から。
日本政策金融公庫のメリットとしては申込みから入金まで1ヵ月程度と比較的短いこと。
そして、創業融資に強いということです。
民間の銀行員さんに聞いても、公庫の創業融資はすごいと話しています。
他にも融資を受けておくと災害や経済危機が起こった時に、救済的な融資が受けやすくなります。これはリーマンショックや東日本大震災、コロナの融資制度が記憶に新しいところです。
新規開業資金の概要
ここからは融資制度の説明です。
令和6年度から新創業融資制度が新規開業資金に統一されました。
利用できる方
新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方。
資金の使い道
新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金
融資限度額
7,200万円(うち運転資金4,800万円)
返済期間
・設備資金 20年以内<うち据置期間5年以内>
・運転資金 10年以内<うち据置期間5年以内>
利率(年利)
基準金利。 2.60~3.90% (令和6年8月1日現在)
担保・保証人
お客様のご希望を伺いながらご相談させていただきます。
解説
今まであった新創業融資制度は「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」がひつようでしたが、新規開業資金に統一されてから、自己資金の条件はなくなりました。
なので、制度上は自己資金がなくても融資が受けられるように見えます。
ですが実務的には自己資金がゼロでも融資が申し込めるようになったにすぎません。
理想的には今までと変わらず、3分の1の自己資金があるとよいと言われています。
土俵に上がるのと、実際の勝負になるかは全くの別物ということです。
また、これから事業を開始する方と税務申告を2期終えていない方は利率が軽減されます。
「創業支援貸付利率特例制度」で基準金利から-0,65%引かれた利率が適用されるのです。
上記の基準金利が2,60%~3,90%なので、そこから0,65%引かれます。
案件によっては2,60%-0,65%=1,95%の利率で実行されるということです。
信用保証協会の保証付き融資
信用保証とは、各都道府県にある信用保証協会が融資を受ける人の債務を保証することで、金融機関が融資をしやすくするものです。保証を受けることで、金融機関のリスクが軽減するので融資がしやすくなるわけです。
この融資手法も長期間、低金利で借りることができます。
ただし、日本政策金融公庫と違い「信用保証料」を支払う必要があります。
信用保証付きの融資は全国共通の制度ではないため、各都道府県や市区町村で融資の条件が違います。
また、市区町村の融資制度の特徴として信用保証料を補助してくれたり、利息を補助してくれたりする自治体もあります。ただし、多くの場合融資までの期間が長くなる傾向にあります。
保証協会を使うメリット
保証付きの融資を使う場合、融資の申込み先は銀行や信金といった民間の金融機関になります。
したがって融資を受けられれば、民間金融機関とお付き合いができることになるのです。
将来的に事業を拡大しようとするのであれば、銀行とのお付き合いは不可欠です。
そのきっかけを作りやすいというのがメリットです。
開業後に業績が堅調に推移していけば、「借りてください」と提案してくるのも民間の金融機関です。
この時はとても借りやすくなります。
うまく付き合っていけばメインバンクを作ることができます。そうすれば将来的に支援を取りつけることにもつながるので、この部分は大きいです。
信用保証協会の保証が必要
利用するには各都道府県にある「信用保証協会」という機関から保証を受ける必要があります。
千葉県なら「千葉県信用保証協会」です。
信用保証協会から保証を受けることができれば、希望の金融機関から融資を受けることができます。
ここで注意したいのは、お金を出すのは銀行などの金融機関ということです。
信用保証協会は保証するだけであり、直接お金は出しません。
また、融資制度も「県」の制度「市町村」の制度が用意されています。
とくに市町村の制度は、自治体ごとに条件が違うので調べる必要があります。
(市町村によっては融資制度がないところもあります)
千葉県の創業融資制度
千葉県全域で利用できる創業融資制度をご紹介します。
【創業関連保証】
利用できる方
(1) 事業を営んでいない個人で、1ヶ月以内に新たに事業を開始する具体的計画を有する方。
(2) 事業を営んでいない個人で、2ヶ月以内に新たに会社を設立し、事業を開始する具体的な計画を有する方。
(3) 中小企業者である会社であって、自らの事業の全部又は一部を継続して実施しつつ、新たに会社を設立し当該会社が事業を開始する具体的な計画を有する方。
(4) 事業を営んでいない個人が事業を開始した日以後5年を経過していない方。
(5) 事業を営んでいない個人により設立された会社であって、設立の日以後5年を経過していない方。
(6) 中小企業者である会社であって、自らの事業の全部又は一部を継続しつつ、新たに設立された会社であって、設立の日以後5年を経過していない方。
保証限度額
3500万円以内
資金使途
創業により行う事業の実施のため必要となる設備資金および運転資金。
保証期間
10年以内(据置1年以内を含む)
返済方法
分割返済
利率
金融機関所定利率
信用保証料率
0.8%
連帯保証
必要となる場合がある。
解説
こちらも公庫と同じように自己資金が1/3あると理想的です。
また、県の制度ではなく市町村の制度を使う場合は、ここに記載した制度とは別の制度が用意されています。お住いの市町村の制度を調べてみましょう。
創業融資の審査基準
ここまで紹介した創業融資制度はどのように審査されるのでしょうか。
とくに重要視されているものを解説します。
審査のポイントとなる点は以下の3点です。
1、自己資金
2、開業業種の経験
3、事業計画書の内容
これは、日本政策金融公庫も信用保証協会の保証付き(制度融資)の場合も同じです。
では、それぞれどのようなところが審査されるのか見ていきます。
自己資金
創業融資において最重要といえるのが自己資金です。
自己資金では下記のようなことを見られています。
自己資金と融資希望額のバランス
たとえば、600万円の融資希望額に対し、自己資金が50万円だと融資は無理です。
しかし、同じ600万円という金額でも、自己資金が200万円位あると可能性は十分でてきます。
融資額が大きくなるのであれば、それに比例して自己資金も多く必要になるのです。
また公庫は「開業への準備」に重点を置いています。
日本政策金融公庫の職員によると、「自己資金を貯めてきた人には、開業にむけてしっかりと準備をしたという評価をしている」とのことでした。
「自己資金を貯める」=開業に向けて準備した努力を、通帳の履歴で客観的に証明できる。ということになり、創業融資の審査において強力なプラス材料となります。
ちなみに、創業融資の審査では個人の通帳を必ず確認されます。
自己資金の出どころ
たとえば、審査時の通帳残高が毎月給料を貯めたものであれば理想的です。
そうではなく、「通帳にある現金は友人からの支援金です」という場合、自己資金はゼロ評価になってしまいます。
通帳のお金がどこから来たものか、というのも審査の対象となるのです。
支払うべきものを支払っているか
毎月の光熱費や携帯代、家賃など決まった時期に支払うものを期日どおりに支払っているのかどうか。見落としがちですが支払いも重要なポイントです。
支払いが滞っていたりすると、融資をしても本当に返済してもらえるのか、怖くてお金を貸すことができません。
税金の滞納も要注意です。
納める義務があるのに納めていない場合、基本的に融資はできません。
ただし、合法的に免税になっていて納める必要がない場合はこの限りではありません。
開業業種の経験
開業する業種の経験がない人よりもある人の方が融資をしやすいです。
開業業種の経験があった方がない人よりも成功しやすいだろうと判断されます。
また、実務経験が豊富であれば、多少自己資金が少なくても希望通りの金額で融資をすることがあります。
業種経験には自己資金不足を補う効果もあるのです。
日本政策金融公庫の追跡調査では、業種経験がない人はある人よりも貸倒率が高くなる。という調査結果をだしていました。
未経験者の場合、貸倒率が高いため当然融資はしにくくなります。
事業計画書の内容
事業計画書もしっかり作っていく必要があります。
たとえば、当事務所では
・「売上げ予定表」
・「損益計画書」
・「資金繰り表」
・「事業内容等を文章化したもの」
以上の4点を必ず作成して金融機関に提出しています。
ここまで作りこんでいくと、担当者は事前にあたりをつけたところを面談時に確認するだけで済みます。
面談時の自分と担当者の負担を減らすことができます。
事業計画がわかりやすい=事業の内容や資金計画が把握しやすい=審査しやすい=融資もできる
ということになります。
日本政策金融公庫の職員によると、損益計画書が全く体裁を成していない事はよくあると言っていました。
自己資金や経験の条件を満たしていても、事業計画書の出来が悪くて否決されては非常にもったいないです。
以上「自己資金」「開業業種の経験」「事業計画書」この3点が審査の重要ポイントです。
他にも、個人的な借入の状況や過去の経営経験、人柄、担当職員の融資姿勢など総合的な要素で結果は変わります。
売上は付属的な要素
ここまで書いたように審査基準に売上実績は入っていませんでした。
売上げはプラスαといったところです。
たとえば、開業1月目に融資を申し込んだとして、売上げがある人と、まだ売上げがない人では売上げがある人の方が良いに決まっています。
ですが、売上げがないからといって融資をしないわけではありません。融資はします。
売上げがないよりも、あった方が審査上通りやすくなるといったところです。
売上げがあると審査が不利になるケースもある
売上げは審査上プラスαになると書きました。
しかし、ケースによっては売上げがあると融資が受けられなくなるケースもあります。
よくある例を挙げてみます。
自己資金のみで開業したAさん。
半年ほど営業しましたが、売上げはあるものの赤字が続いています。
赤字が半年間続いたので手持ち資金が底をつきそうになってきました。
そこで、資金不足を補うため融資を申し込みます。
以上のような場合、売上と経費が共に発生しており、その事業の営業実績がすでにあります。
半年間の営業といえども黒字であれば良いですが、赤字続きの場合どうでしょう。
金融機関としては半年とはいえ、厳しく審査してきます。
開業後しばらくしてからの融資は、それまでの営業実績も審査され、そのウェイトは大きくなってきます。
前掲したように赤字続きであれば当然審査は厳しくなり、赤字の額によっては融資が受けられません。
また、仮に黒字であったとしても月商や経費の額などがわかる状態なので、その数値をもとに審査されて、希望通りの金額がでないことも考えられます。
要するに、開業後数ヶ月たつと、これまでの実績がその会社の実力と判断されるわけです。
以上のように売上実績があっても、何か月も赤字が続くようであれば融資は厳しくなります。
であれば、売上げも何もないまっさらな状態の開業前か直後の方が、創業融資は受けやすくなるのです。
さいごに
売上実績がなくても創業融資は受けられます。
そして融資の制度は、日本政策金融公庫か信用保証付きの融資のどちらかを使うことがほとんどです。
どちらを使うにしても審査基準はほぼ同じです。
自己資金、開業業種の経験、事業計画書がとくに重要視されます。
そして、売上実績は開業前か直後であればプラスに働きます。
逆に売上げがある、営業実績があるために融資が受けられなくなるケースもあります。
このように創業融資を申しこむタイミングで有利にも不利にもなることがあるのでご注意ください。