開業時は公的な創業融資制度を利用することができます。
この創業融資で悩むことのひとつが、その「時期」「タイミング」です。
いつ融資を申し込むのが適切なのか。
今回は私が創業融資の相談を受けてきて、特に相談の多かったタイミング、時期について解説していきます。
よくある3つのタイミング
創業融資を受けるタイミングとはどのようなものがあるのでしょうか。
私がよく相談を受ける時期は以下の3つになる傾向があります。
1,創業前
2,創業と同時~直後
3,創業してから半年以上1年未満
というご相談が多い傾向です。
上記のケースがどのようなことか、もう少し具体的に見ていきましょう。
創業前
創業前のイメージとしては以下のような状態です。
現在、学習塾を運営している会社で勤務しているが、会社を退職し、自分で学習塾の開業を計画している。
しかし、自己資金だけでは開業できない。
そこで、今の会社にいるうちに創業融資を申し込む。
融資が通ったので、職場を退職して正式に自分の学習塾を開業できた。
というように、事業を始める前に融資を受けるケースです。
創業と同時~直後(1ヵ月~2カ月後)
創業と同時か創業してあまり期間を空けずに申し込むこともあります。
例えば、以下のようなケースです。
個人事業で配送業を開業。
自己資金のみでも営業できるが、本人1人での営業となると、売上げも低く、手元に残る利益も少なくなってしまう。
売上を上げるには外注やスタッフを雇用する必要があると判断。
そのためには外注費や人件費にあてる資金が必要。
そこで創業融資を受けることにした。
開業初月の売上実績をもとに事業計画書を作成。
開業して1ヶ月半後に創業融資を申し込み、無事に融資が決定。
融資金を使ってスタッフの雇用することができた。
というように、開業してすぐ融資を申し込むこともあります。
創業して半年以上~1年未満
開業して半年以上~1年未満の段階でのご相談もよくあります。
例えば以下のような事例です。
自己資金のみでサロンを開業。
開業後、半年ほどたつものの売上げが良くない。
この状況を打開するために、以前の勤務先が加盟していたフランチャイズに加盟することに。
このフランチャイズはサービス面での優位性もさることながら、集客面の支援もしていた。
そこで、FC本部にすでに加盟している他店舗の売上実績を数店舗分もらい、事業計画書を作成し融資を申し込む。
無事に融資が決定しFCに加盟した。
翌月から過去最高売上げを達成し、数か月後には月商100万円を超えることができた。
このように、当初は自己資金のみで開業し、ある程度時間が経ってから融資を申し込むこともあります。
ここまで3つのケースを見てきました。
次項ではそれぞれのタイミングにおける、メリットとデメリットについて解説していきます。
タイミング別のメリット・デメリット
創業融資はそのタイミングによって、メリットとデメリットがあります。
この項では前掲した3つのタイミングにおける有利、不利を解説していきます。
なお、これは私の経験上によるものなので、ひとつの意見としてお読みいただけるとありがたいです。
創業前のメリット
勤務しながら創業融資を申し込める
創業融資は当然ですが審査があります。
したがって、融資が否決される可能性もあるということです。
会社を退職した後に融資を申し込んで否決されたとしたら、その後の収入がありません。
ですが、創業前は会社に勤めながらでも申し込むことができます。
融資が決まったら退職して開業することもできますし、否決されたらそのまま勤務することができるでしょう。
このように、万が一のリスクをカバーすることができます。
大きめの金額が借りやすい
創業融資の融資可能額を判断する目安があります。
自己資金額×2が無理なく貸せる目安です。
例えば、自己資金が300万円あれば600万円の融資も可能だということです。
仮に創業後1期以上経過した会社が600万円借りようとした場合、目安として年商で2400万円必要になります。
なぜかというと、すでに決算を終えた場合は平均月商が目安になるからです。
この目安を専門的な用語で「借入月商倍率」と言います。
運転資金であれば、だいたい平均月商の3ヶ月分が無理なく貸せる範囲となっています。
そのため、上記の600万なら平均月商200万×3ヶ月となるわけです。
年商ベースで行くと200万×12ヶ月で2400万ないと厳しいとなるのです。
業種にもよりますが、社長一人で事業をしていたり、小規模な事業だった場合、上記のような2400万円の売上げを作ることはなかなか大変です。
ですが、創業前なら自己資金額が基準になるので比較的大きめの額も借りやすくなります。
手持ち資金を多く持った状態で開業できる
創業前に運転資金の融資を受けておけば、現金を多く持った状態で開業できます。
開業時はリピーターや顧客がほとんどいないことが多く、売上げが低い又は不安定であることが多いです。
この売上げが低い時期を乗り切り、軌道に乗せるためには時間がかかります。
軌道に乗る前に手持ち資金が底をつけば倒産してしまいます。
そうさせないために黒字化するまでの時間稼ぎをしてくれるのが、手持ちの現金です。
なるべく現金を多めに持つことで、余裕を持った経営判断ができることもメリットと言えます。
創業前のデメリット
注意しないと足りなくなる可能性がある
これから開業する場合、多くの人が人生で初めて事業性の融資を受けることになります。
融資申込みにあたっては、何にいくら必要なのか分かっていなければいけません。
もし、必要な費用を計上せずに融資を受けると、いざ開業に向けて着手したときに資金が足りなくなってしまいます。
物件取得費用や内外装工事費など、設備資金の見積もりを忘れないようにすることと、運転資金を多めに借りておくとよいでしょう。
かなり忙しい
勤務しながらの場合、かなり忙しくなります。
会社の仕事と同時並行で、事業計画書の作成や開業に向けた準備をしなければなりません。
有給休暇などを上手に使うとよいでしょう。
創業と同時~直後(1ヵ月~2カ月後)のメリット
大きい金額を借りやすい
上記の創業前と同じで多めの金額が借りやすいです。
事業計画が立てやすい
開業して1月すると、1ヵ月目の売上と経費の実績が実際にわかります。
その実績をもとに実現可能性の高い現実的な事業計画書ができます。
したがって、今後いくら必要なのかもわかるため、適切な融資額で申し込むことが可能です。
創業と同時~直後(1ヵ月~2カ月後)のデメリット
勤務先を退職しているとリスクが大きい
開業と同時や1~2ヶ月の場合、すでに勤務先を退職していることが多いです。
当然融資なので審査があります。
そのため、自分は融資を受けられるだろうと思い融資を申し込み、審査をしたらゼロ回答だった。
ということも普通にあり得るわけです。
この場合、融資なしで自力で営業していくしかありません。
さらに、勤務先を退職したので収入もありません。
このようなリスクがあるので要注意です。
創業して半年以上~1年未満のメリット
借りる必要がないかもしれない
このケースの場合、借入をせず自己資金のみで開業することがほとんどです。
開業から順調に売上げと利益が出ていれば、創業融資を受ける必要がないかもしれません。
メリットはあまりない!?
創業融資を受けることを前提とすると、開業後半年以上してから融資を受けることに、あまりメリットはないと感じています。
これは、私がご相談を受けた方々の傾向での判断なので、もしかするとあるかもしれません。
私がメリットは無いと感じる理由は次のデメリットの部分が強いからです。
創業して半年以上~1年未満のデメリット
これまでの実績が影響する
開業して数か月後の融資になると、開業から申し込み時点までの実績も審査の対象となります。
それまで黒字であればまだ良いのですが、赤字が続き黒字になる根拠もなければ、厳しい結果にならざるを得ません。
また、黒字であってもこれまでの実績値がでているので、その実績をもとにどれくらい貸せるかが決められてしまいます。
つまり、創業前に融資を受けることと比べて、金額と可能性が低くなる傾向にあります。
であれば、開業前か直後に融資を申し込んだ方が得策と言えます。
もう一つの理由として私の経験上、厳しい判断をせざるを得なかったのはこのケースが多いからです。
よくあるのが、自己資金だけで開業したものの、半年以上経ってから手持ち資金がなくなってきたので融資を受けたい、といったご相談でした。
この場合、融資が厳しいことがほとんどでした。
日本政策金融公庫の担当者も「このケースが一番やりにくい」と話していました。
貸す側の立場になると理解できると思います。自分が銀行員だったとして業績が悪い会社に安心して貸すことができるのか。と想像してみるとわかりやすいです。
結論
以上、創業融資を受けるタイミングのメリットとデメリットを紹介してきました。
個人的な創業融資の経験によるものなので偏っているかもしれませんが、結論としては以下のようになります。
創業前か直後が適切なタイミング
創業融資である程度の金額を確保し、さらに可能性を上げるなら、創業前か直後がよいでしょう。
その中でも創業前に勤務しながら融資を申し込むのがおすすめです。
なぜなら、可能性と金額を追及しながら否決された時のリスクを抑えられるからです。
なるべく融資を使いたくない方は創業後しばらくしてから
融資を受けるのを避けたいのであれば、自己資金のみで開業して営業実績を見ながらになるでしょう。
ただし、赤字が続いていたりすると融資を受けられなくなる可能性が高くなるので要注意です。
以上が創業融資の支援をしてきた経験による実感です。
少しでもお役に立つ内容でしたら幸いです。