開業する際、創業融資を利用することができます。
その創業融資と言えば日本政策金融公庫でしょう。
今回は創業融資を受けることのメリットと、日本政策金融公庫を使うことのメリットの2つについて解説していきます。
少しでも参考になる内容でしたら幸いです。
創業融資を受けることのメリット
まず、創業融資を受けることで得られる利点について解説していきます。
これは日本政策金融公庫でも民間の銀行でも同じです。
融資を受けることで開業できる
自己資金のみでは事業を始められないため、不足分を創業融資で補うことで開業できる。
というように、創業融資を受けることが事業開始の大前提となっているケースがよくあります。
ご相談いただく内容もこのような動機で融資を検討される方が多いです。
事例
例えば、以下のようなケースです。
・事業に必要な資金総額
800万円
・自己資金(預金残高)
300万円
・融資額
500万円
「総事業資金-自己資金=融資金額」で計算します。
上記の数字で計算すると、
800万円-300万円=500万円
となります。
800万円の総事業費に対して、300万円の自己資金では500万円足りません。そこで、不足分の500万円を借りることによって事業を始めることができるのです。
資金に余裕を持って開業できる
創業融資では当面の運転資金を借りることもできます。
開業当初は売上げが低い、又は不安定で赤字になることが多いです。
そこで、資金を多く持つことで経営が軌道に乗るまでの期間を耐える効果があります。
現金が無くなり、取引先に支払いができなくなった時が倒産です。
そうならないためにも運転資金を多めに確保しておくと良いでしょう。
また融資を使うことで当面の生活費を確保することもできます。
事例
生活費を確保するために以下のような借り方があります。
・総事業資金
600万円
・通帳残高
300万円
という条件の場合、通常であれば600万円-300万円で融資額は不足分の300万円となります。
ですが、このケースを以下のようにして融資を受けることもできます。
・総事業資金
600万円
・通帳残高
300万円
通帳にある300万円のうち、事業に使うのは200万円。残りの100万円は当面の生活費として別にしておく。
ということもできます。
この場合以下のように計算されます。
600万円-200万円=400万円
というように400万円の融資を受けて開業します。
さらに100万円を生活費として別にしてあるため、この先3~4ヶ月分の生活費も確保できています。
こうすることで精神的にも余裕ができます。
上記の例で、預金残高300万円をすべて事業資金にした場合、融資額は300万円です。
融資直後の総手持ち資金は600万円となります。
対して、預金残高300万円のうち200万円を事業資金にすれば融資額は400万円ですが、100万円別に生活費が確保できます。こちらの融資直後の総手持ち資金は700万円です。
創業融資は事業性の融資であるため直接生活費を借りることはできません。ですが、自己資金からあらかじめ生活費を別にしておくことで、余裕を持たせることができます。
ただし、上記のような借り方ができるかどうか、できる場合は金額をいくらにするか等は、融資希望額と自己資金のバランスによりケースバイケースの判断になります。気になる場合は専門家に相談してみると良いと思います。
選択肢が増える
融資を受けることで経営に関する選択肢や打ち手を増やすことができます。
自己資金のみでは費用的に手が届かなかいけれど、融資を受けることで妥協せずに済むこともあります。
例えば、少し家賃は高いものの立地条件が良い店舗を借りる、少し高いが業務効率化できる機材が欲しい、中古の営業車ではなく新車が良い、広告費を多めにかけたいなど。
これらをあらかじめ決め、融資を受けることで経営しやすい環境に近づけることができます。
他方、開業すれば予定通りにいかないことも当然出てきます。
その際に資金的に余裕があれば、次の打ち手の選択肢も広がります。
次の策が見つかっても資金不足で手が打てないのではどうしようもありません。
資金不足の状態に陥ってから金融機関に融資を申し込んでも、厳しい結果になる可能性は高いです。
であれば、開業時に融資を受けて運転資金を多めに確保しておく方が良いと言えます。
次回以降の融資が受けやすい
創業融資を受けて順調に返済をしていくことで、2回目以降の融資が受けやすくなります。
もちろん2回目だから何でも融資をするというわけではありません。それまでの決算状況や借入残高、前回の借入れ時期などにも左右されます。
非常事態
すでに融資取り引きをしているかどうかの影響は今回のコロナ禍によく感じました。
通常よりも融資を受けやすいと言われたコロナ関連の融資制度ですが、初めて融資を受ける事業者と、既に融資を受けている事業者には差がありました。
融資自体が厳しいと判断されたり、審査が長期化したり、提出書類が多いなどとマイナスの影響があったのは、それまで融資を受けたことがない事業者でした。
反対に、決算内容的に芳しくない事業者でも希望通りの融資が通り、審査期間も短く、書類も簡易的だったのがすでに融資を受けていた事業者であることが多かったです。
銀行取引が有利になる
融資取り引きをしておくことで、次の融資に有利に働くことがあります。
例えば、ある程度返済をしていくと融資セールスを受けることがあります。特に民間金融機関です。業績が順調であれば「そろそろ借りませんか?」というような提案がされるのです。
この時が一番借りやすい時なので、借りて資金的余裕を持つのも良いでしょう。
また、決算状況にもよりますが、他の金融機関から借りやすくなる面もあります。
銀行は横並びで審査をすることがあります。
簡単に言うとA銀行が融資をしているなら、うちも融資をしよう。
逆にA銀行が融資を引き揚げているなら、何か危ない材料があるのではないか。
というように他行の状況を気にしています。
なので、例えば創業融資を日本政策金融公庫で受ければ、その後民間の銀行も比較的融資をしやすい状況になる可能性があります。
これに関連して、最初に融資を受けた金融機関に取引を集中しがちで、1行取引になりやすいです。
ですが、金融機関としては借入れが自行だけというのをあまり良く思いません。
なぜなら、当然金融機関側にも貸せる限度があるからです。
もしも、限度額に達して自行がこれ以上融資できなくなった場合、その会社は資金調達ができるのか危惧されます。
そのときに、自行以外に借入れができる金融機関があれば、貸す側も安心できるというわけです。
このように、創業融資を受けて資金調達の選択肢を増やすことで、いざという時の対策にすることもできます。
日本政策金融公庫を利用するメリット
ここまでは、創業融資のメリットを解説してきました。
さて、その創業融資を検討する際に第一候補となるのが「日本政策金融公庫」です。
日本政策金融公庫は政府系の金融機関で、政策に基づく様々な分野へ融資を行っています。
近年力を入れているのが、創業支援、事業承継支援、ソーシャルビジネス支援、事業再生支援などです。
同時に大規模災害や経済危機の場面では特別な融資制度が発令されます。
また、融資先は小規模事業者が中心で、約半数は個人企業となっています。
私たちが創業融資を受ける「国民生活事業部」はコロナ禍で融資残高、融資先数を伸ばしました。
融資先は120万先となり、平均融資残高も948万円と増えました。
では、ここからは日本政策金融公庫を利用することのメリットを解説していきます。
銀行よりも返済期間が長い
日本政策金融公庫で運転資金を借りる場合、7年返済で融資を受けることができます。
一方、銀行や信金から信用保証付きで運転資金を借りると5年返済で組むことが多く感じます。
銀行や信金が短いというのではなく、公庫が特に長いといったイメージです。
長期で返済できれば毎月の返済額が減らせるので、これは資金繰り面でメリットと言えます。
7年と5年で比較
では、ひと月あたりの返済額を、銀行の5年と公庫の7年で比較してみましょう。
どちらも同じ800万円を借りたとします。
銀行の場合は以下のようになります。
800万円÷60ヵ月=13万3千円
公庫の場合は以下です。
800万円÷84ヵ月=9万5千円
ひと月あたりの元本返済額は3万8千円の差があります。
1年にすると約45万円返済負担が少ないことになるのです。
ただ、銀行の方が返済期間が短い分、利息を含めてみると公庫よりも銀行の方が総支払い額は少ないです。
とは言え、利息の総額よりも毎月の資金繰りの方を重要視すると、なるべく毎月の負担を減らせるほうが得策と考えます。
入金までが早い
日本政策金融公庫と銀行で保証付きの融資を受けるのでは、入金までのスピードに差があります。
日本政策金融公庫は申込みから入金までの期間が約1ヵ月です。
保証付きの融資は都道府県の制度を使えば約2ヶ月~2ヶ月半。市町村の制度はそれ以上かかることが多くあります。
もちろん、案件の内容や審査の込み具合に左右されますが、おおよその目安としては上記の通りです。
このように日本政策金融公庫の方が融資実行まで早いですが、審査の途中で何があるか分からないため、余裕を持って申し込むことがおすすめです。
創業融資の実績が豊富
創業融資といえば日本政策金融公庫と言われるように、公庫は創業融資案件をたくさん扱っています。
令和4年度は全国152支店で25,500先に創業融資を実行しました。
単純計算で平均すると1支店当たり167件実行していることになります。(もちろん地域差はあると思いますが)
そのため、担当職員も審査ノウハウや事例を豊富に持っていると言えます。
一方の銀行や信金、信組はどうでしょう。
もちろん、創業融資案件も扱います。
ただ、銀行や信金、信組はその数が多く、各金融機関の支店が地域にひしめき合って競合している状態です。
そのため、1支店に持ち込まれる創業融資案件は少なくなってしまいます。
そうなると、銀行員も創業案件の経験を積みにくいというのが現状です。
だからといって、必ずしも民間の金融機関が不利というわけではありません。
一生懸命に積極的な姿勢で取り組んでくれる担当職員もいます。民間の金融機関を利用する場合は、そのような人のいる支店に融資を申し込むというのも有効な手です。
さいごに
以上、創業融資と日本政策金融公庫のメリットを紹介してきました。
まとめると以下のようになります。
創業融資を受けるメリット(公庫、民間の金融機関に共通)
・自己資金のみでは開業できなくても、融資を受けることで事業を始められる。
・資金を多めに確保して開業できる。
・次回以降の融資が受けやすい。
日本政策金融公庫で創業融資を受けるメリット
・長期返済で毎月の元金返済額を減らせる。
・保証付きの融資よりも入金までが早い。
・公庫は創業融資の実績が豊富。
少しでもお役に立つ内容でしたら幸いです。