福祉事業の開業に使える融資制度があります。
NPO法人や保育、介護事業などソーシャルビジネスで利用することができます。
今回は、福祉事業でおすすめの創業融資制度についてまとめました。
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- この記事では以下の内容に触れています。
- ソーシャルビジネス支援資金の概要
- 融資実行までの流れ
- 融資審査の基準と対策
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少しでもお役に立つ内容であれば幸いです。
ソーシャルビジネス支援資金の概要
福祉系の事業で利用できる融資制度に「ソーシャルビジネス支援資金」というものがあります。
これは日本政策金融公庫という政府系の金融機関に用意されている制度です。
まずはこの融資制度の概要をお伝えいたします。
ソーシャルビジネス支援資金
ソーシャルビジネス支援資金の概要は以下の通りです。
※日本政策金融公庫のホームページより引用。
ご利用いただける方
1,NPO法人
2,NPO法人以外であって、次の(1)または(2)に該当する方
(1)保育サービス事業、介護サービス事業等を営む方
〈老人福祉、介護事業、児童福祉事業、障がい者福祉事業等〉
(2)社会的課題の解決を目的とする事業を営む方
資金の使い道
事業を行うために必要な設備資金および運転資金
融資限度額
7,200万円(うち運転資金4,800万円)
返済期間
設備資金 20年以内〈うち据置期間2年以内〉
運転資金 7年以内〈うち据置期間2年以内〉
利率(年)
【NPO法人】
1,保育サービス事業、介護サービス事業等を営む方 [特別利率B]
2,認定NPO法人(特例認定NPO法人を含みます) [特別利率A]
3,社会的課題の解決を目的とする事業を営む方 [特別利率A]
(ただし、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」に定める過疎地域内で事業を行うために必要な資金は[特別利率B]
4,上記1~3に該当しない方 [基準利率]
【NPO法人以外】
1,保育サービス事業、介護サービス事業等を営む方 [特別利率B]
2,社会的課題の解決を目的とする事業を営む方 [特別利率A]
(ただし、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」に定める過疎地域内で事業を行うために必要な資金は[特別利率B]
担保・保証人
お客様のご希望を伺いながらご相談させていただきます。
〈NPO法人の特例〉
利率を上乗せすることで、代表者保証が不要になります。
以上が「ソーシャルビジネス支援資金」の概要となります。
ソーシャルビジネス支援資金の利点
この融資制度は金利負担が軽くなるという面でおすすめです。
概要にもある通り、条件にあえば特別利率が適用され、通常よりも利率が低くなります。
「特別利率A」であれば基準利率よりも0,4%程度、「特別利率B」であれば0,6%程度低く設定されます。
たとえば、保育サービス事業、介護サービス事業等を営む方はそれだけで「特別利率B」が適用されるわけです。
※利率は数ヶ月ごとに見直されますので直近の利率は日本政策金融公庫のホームページをご覧ください。
利率以外に、NPO法人やNPO法人以外でも一定の条件を満たす方は「代表者保証」が不要になります。
代表者の保証という点でも使い勝手が良い制度といえるでしょう。
融資実行までの流れ
「ソーシャルビジネス支援資金」を利用するには日本政策金融公庫に融資を申し込みます。
申し込みから実行までのおおまかな流れは以下の通りです。
日本政策金融公庫に融資を申し込む
最寄りの日本政策金融公庫の支店に融資を申し込みます。
このとき、借入れ申込書とともに事業計画書や見積書なども提出しましょう。
担当者から連絡がある
申込み後1週間ほどすると、審査を担当する職員から電話で連絡があります。
その際、面談日の調整や面談当日の持ちものなどが伝えられます。
後日、書面でも通知が来ます。
基本的には電話がありますが、電話なしで書面のみで通知されることも過去にありました。
担当の職員と面談
約束した面談の日になると担当者と面談をおこないます。
面談時間は約1時間ほどです。
ケースによっては長くなることもあります。
面談の内容は事業計画書の内容に基づいて、自己資金、経歴、担当者の気になっていること等さまざまなことを質問されます。
質問されたことに淡々と答えていきましょう。
融資の諾否が決定する
面談後、約1週間で融資の諾否が決定します。
支店の混み具合や審査が難航した場合などは1週間以上かかることもあります。
決定すると審査担当者から連絡があり、結果が告げられます。
日本政策金融公庫と金銭消費貸借契約を交わす
OKがでると金銭消費貸借の契約書が郵送されてきます。
必要事項を記入して指定の送付先に発送しましょう。
その際、返済期間や利率なども確認しておくと良いです。コピーをしておくのもよいですね。
融資金が入金される
契約書を送付すると、数日で指定した金融機関の自分の口座に入金されます。
注意点
融資は基本的に許認可取得後に実行されます。
とくに福祉関係の事業では許認可の条件が厳しかったり、許認可が下りるまでかなり時間がかかることがあります。
そのため、融資実行までの事業資金を貯めておいたり、最低でも許認可と同時に融資手続きを進めるなど、許認可も見越して進めていくとよいでしょう。
融資審査の基準と対策
ここからは、融資審査のポイントと基本的な対策について解説していきたいと思います。
すべての事業に共通するものなので、福祉関係の事業でも同じです。
創業融資の審査のポイント
・自己資金
・開業業種の経験
・事業計画書
以上の3点が特に重要ポイントになります。
自己資金
創業融資において一番重要なものが自己資金です。
自己資金の金額
自己資金をどのくらい持っているのかが重要です。
現金が多ければ多いほど審査に通りやすくなります。
逆に少なければ審査のハードルが上がったり、大きい金額の借入れが難しくなります。
目安としては、総事業資金の1/3以上の金額が銀行口座にあると「理想的」です。
(あくまでも理想)
「総事業資金」とは、開業時にかかる設備資金と運転資金の総額です。
たとえば、
設備資金 400万円
運転資金 200万円
だとすると、合計600万円が総事業資金となります。
この600万円の1/3である200万円を自己資金で持っていて、
残りの400万円を融資で調達する。
というように1/3を自己資金で。残りの2/3を融資でまかなう。
このように資金の配分ができていると理想的です。
もちろん自己資金1/2、借入1/2だとさらに審査に通りやすくなります。
自己資金が多いほど借入れ負担も少なくて済みます。
したがって、開業後の毎月の返済額も少なくすることにもつながります。
ただ、必ずしも1/3の自己資金を持っていなければならないかといえば、そういうことではありません。
借りる人の経歴や準備の状況によって、1/4や1/5でも融資はされます。
ですが、自己資金を多くもっている方が有利なことに変わりありません。
余談ですが、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は自己資金が1/10あれば申し込めます。
しかし、1/10はあくまで「申し込める条件」です。
当然、1/10の自己資金だと金額が少ないのでハードルは高くなります。
「土俵にあがる」のと「実際勝負になるか」は別ものということです。
ということで、創業融資を受けるための最も重要な対策は「自己資金を貯めること」になります。
自己資金の蓄積過程
実は、自己資金は金額のみで審査をしているわけではありません。
金額のほかに、自己資金の「蓄積過程」も審査されています。
見落としがちなところですので注意しましょう。
給料をコツコツ貯める
たとえば、審査時の通帳残高が200万円ある人がいます。
この200万円が毎月の給料から生活費を差し引いて、少しずつ貯めてきたというようなものであれば理想的です。
なぜかというと、少しづつ貯蓄してきたということは、開業に向けて計画的に準備してきた、と評価できるからです。
とくに、日本政策金融公庫はこの「準備」を評価する傾向があります。
少しづつ貯めてきたことが通帳の履歴などから分かれば、自己資金が少なめでも、希望通りの金額を融資することがあります。
支援金のみは評価が低い
前掲のように、自分で貯めた金額ではなく、「通帳にある現金は全額、親族からの支援金です」という場合、評価は低くなります。
なぜなら、自己資金の重要な意味である「開業に向けた準備」として評価できないからです。
自分で貯めたお金がそれなりにあって、少し不足するので支援金をもらうケース、であれば問題ありません。
たとえば、自分で貯めたお金が200万円で父親から50万円もらった。
というような合計250万円を自己資金とするようなケースです。
これであれば、自分も頑張って準備してきて、家族にも応援されている、と評価されてもおかしくないです。
見せ金はNG
自己資金を増やそうとして一時的にどこかから借りてくることも考えられます。
ですが、基本的にこのような「見せ金」はバレてしまいます。
自己資金は証明できるように
多額の自己資金を貯めても、それが自分で貯めたものだと証明できなければ評価の対象になりません。
その証明できない典型的なものがタンス預金です。
たとえば、給料を振込みではなく手渡しでもらっているので、通帳ではなくそのまま現金で保管してるような人は要注意です。
タンス預金の場合、そのお金がどこから来たものなのかわかりません。
そのため、審査する側は次のように考えます。「給料で貯めたと言いっているけど、本当は他人から借りたものかもしれない。証明するものがない以上自己資金として評価できない」
そのため、自己資金はただ貯めれば良いというものではありません。
自己資金の蓄積過程を通帳で客観的に証明できるようにしておくことも、大事な創業融資対策になります。
支払うべきものを支払っているか
お金の蓄積だけでなく、支払い状況も審査されます。
支払い状況とは何かというと、「支払うべきものを期日どおりにしっかり支払っているか」です。
たとえば、毎月の電気代やガス代、携帯代、家賃、税金などがこれにあたります。
期日どおりに支払っていれば、なにも問題ありません。
逆に支払いが滞っていたりすると、「お金にだらしない人」という評価をされてしまいます。
この場合、本当に返済してもらえるのか怖くてお金を貸すことができません。
金融機関はお金を貸して返してもらうまでが仕事です。
支払いにも気をつかうというのは納得です。
とくに、税金の未納や滞納があると融資を受けることはほぼ不可能になります。
見落としがちな点ですが、日々の支払いに遅れないことが同時に創業融資の対策になっているのです。
開業業種の経験があるか
創業融資では「開業業種の経験」も審査の対象となります。
どのような点が審査で重要なのか見ていきます。
開業する業種の経験があると有利
開業する業種での勤務経験があると審査にプラスとなります。
勤務経験がない人よりもある人の方が業務の内容を知っているため、事業がうまくいきやすい、と評価されます。
金融機関としても事業が成功し、しっかり返済してくれる人に貸したいです。
また、日本政策金融公庫の融資先を調査した資料によると、
勤務経験がない人はある人と比べると、返済できなくなる確率が高い、という調査結果がでました。
この調査結果からも、勤務経験がある人の方が返済の可能性が高く、有利になることがわかります。
勤務年数より実績
開業業種の経験で大事なのは年数よりも、勤務時代の実績です。
勤めた期間よりも、「勤務期間に何を経験した」のか。
これが審査のポイントであり、審査担当者が知りたい思っているところです。
何を経験したのか、自分の強みは何なのかをアピールしましょう。
自身の経験は事業計画書に記載して、担当者が読めるようにしていくと良いです。
勤務経験がないから融資しないではない
開業業種の経験があると、融資に有利と書いてきました。
しかし、勤務経験がないからといって必ずしも融資しないわけではありません。
経験がなくても融資はします。
ただし、ハードルが上がったり大きな金額は出にくくなるなど、不利な部分は出てきてしまいます。
経験がないことに加えて、自己資金も少ないとなると、融資はかなり厳しくなります。
経験が少なければ、自己資金を多く。
自己資金が少なければ、自己資金不足を補う経験が必要です。
事業計画書の内容
事業計画書の内容も審査に影響を与えます。
事業計画書を書く際に抑えておきたいポイントを解説していきます。
事業計画書は分かりやすく
事業計画書は自分の事業の強みなどがわかりやすく記載されていると良いです。
内容が分かりにくい事業計画書を作成しても、審査する側に正しく伝わりません。
また、数十ページもある計画書を作っても、審査する側はすべて読むことができません。
なので、ポイントをしぼって10~20ページ位にまとめて、審査しやすくすることがおすすめです。
そのための最低限必要なものについて書いていきます。
フォーマットを提出
日本政策金融公庫で創業融資を受ける場合、公庫に「新創業融資制度」のフォーマットが用意されています。
このフォーマットの各項目を埋めて提出します。
以下フォーマットの項目を挙げてみます。
1.創業の動機
2.経営者の略歴等
3.取り扱い商品、サービスの内容
4.セールスポイント
5.販売ターゲット・販売戦略
6.競合、市場など企業を取り巻く状況
7.取引先、取引関係等
8.従業員
9.お借入れの状況
10.必要な資金と調達方法
11.事業の見通し
12.自由記入欄
以上を埋めて提出します。
フォーマットの記載事項を別紙にまとめる
公庫のフォーマットを埋めて提出すると書きました。
ですが、フォーマットの記入欄だけでは記載しきれません。
例えば、創業の動機などは4行しかありません。
4行で自分の想いを表現するのは不可能です。
なので、フォーマットで表現しきれない項目は別紙に書いて提出します。
どの項目を詳しく別の紙に書いていくのか。
当事務所の例を挙げてみます。
上記のうち
「1」創業の動機、
「2」経営者の略歴、
「4」セールスポイント、
「5」販売ターゲット・販売戦略、
「6」競合、市場など企業を取り巻く状況、
「7」取引先、取引関係
をWordで詳しく書き「創業計画書 補足資料」という題名で提出します。
この補足資料で書いた内容を要約したものを、フォーマットに記載します。
「11」の事業の見通しは、Excelで「損益計画書」を3年分(36ヵ月)作成します。
作成した表から開業当初の損益と軌道に乗った頃の損益の数字を抜き出してフォーマットに記載します。
Excelで作成した「損益計画書」ももちろん提出します。
可能であれば資金繰り表も作成
資金繰り表も作成できるのであれば、作成したい資料です。
資金繰り表とは簡単に言うと「現金の出入りのみ」を計算する表です。
なので、減価償却など実際に現金が出ていってないものはカウントしません。
「いつ現金が入ってきて、いつ出ていくのか」
これだけを表します。
これも12ヵ月分の表を作って提出したいです。
とくにこの資金繰り表があると、会社の資金の流れがわかりやすくなります。
返済ができることを示せる書類となりますので、ぜひ作りましょう。
その他の要素
個人的債務が多額にあるかどうか
住宅ローンや車のローンはあまり問題になりませんが、カードローンや消費者金融などの残債が多額にあると、審査では不利になります。
金額しだいでは、これが原因で否決になることもあります。
仮に融資したとしても、既存の借入れ返済に、創業融資の返済も加わると、資金繰りが厳しいのではないか。という判断になります。
なるべく、カードローンや消費者金融の利用は控えておくと良いです。
販路はあるのか
販売先が具体的に決まっているとプラスです。
たとえば、A社と取引が決まっていて、開業すればすぐにA社からの売上げがある。
実際にA社と契約書も交わしている。
という状態だと審査にプラス要素として作用します。
以上、一般的な審査基準と創業融資の対策について解説してきました。
ここに記載したものは主なポイントのみなので、記載した内容以外のことも総合的に考慮して審査をしています。
さいごに
福祉関係の事業で創業融資を受けるのであれば、日本政策金融公庫の「ソーシャルビジネス支援資金」という制度がおすすめでした。
制度の条件に合えば、金利が優遇されたり代表者保証が不要になります。
ただし、許認可が必要な業種では許可が下りるまでの期間があるため、融資実行までの資金的余裕に注意を払っておくとよいでしょう。